そんな場合、原因はたいてい主人公が武将だからである。同時代で同じ職業となれば、やることが似通うのは当たり前だろう。とくに武将の場合だと、どうしても合戦に参加してもらわねばならないが、合戦シーンなんてそうバリエーションがつけられるものではない。鉄砲と弓を打ち合ったあとに槍を合わせる、という画一的な描き方になってしまう。ヘリコプターが飛んできて機銃を乱射し、足軽をばたばた倒す、というシーンはなかなか描けないのである。
しかし合戦シーンはストーリーの流れでも節目になるし、描写の上でも書き手の腕の見せ所である。武将を主人公にした小説では、書かないわけにはいかない。
同じ状況を幾通りにも描き分けて見せるのも腕前のうちだけれど、楽しい作業とはいえない。とくに関ヶ原や桶狭間など主要な合戦は、どんな風に戦われたのか、始まりから終わりまでよく知られているから、想像を働かせる余地もあまりない。
その点、今回は陰陽師や曲舞(くせまい)、雑色(ぞうしき)といろんな職業を登場させたので、合戦シーンの差別化問題に悩まずにすんだ。その上、さまざまな人の仕事ぶりを描くのは楽しかったし、勉強にもなった。とくに蹴鞠があれほど精妙に洗練されたスポーツだとは、恥ずかしながら調べてみるまで知らなかった。どんなふうに洗練されているかは、ぜひ本書の「鞠を高く蹴りあげよ」をお読みいただきたい。
そういえばこの短編は、ドイツワールドカップに触発されて、「あちらがサッカーならこっちは蹴鞠で」などと編集者の方に宣言して書いたものだった。結局、ワールドカップが終わってかなりたってから掲載され、サッカー人気に便乗はできなかったけれど、それもいまとなっては楽しい思い出である。
小説の面白さは、話の筋を楽しむことと、知らない世界を知ることの二本立てではないかと私は考えている。そのうち読者の方々が知らない世界を描くことは、本書ではまずまず成功したかなと思う。戦国時代の陰陽師がどんな生活をしていたか、また戦国時代の芸能興行がどんなだったかなんて、知っている人は少ないと思うのだ。もっとも、知りたいと思う人はもっと少ないかもしれないが。
あとはさて、面白いと思っていただけるかどうかだが、これは読者の方々のご批評を待つしかない。多くの方に本書を手にとっていただきたいと願う次第である。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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