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キンキンの遺言

キンキンの遺言

文:うつみ 宮土理

『泳ぎたくない川』 (愛川欽也 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #小説

 キンキンは、今、天国で大好きなミイ母さん(お母さんの名前は、みいさんといった)に会って、手をとり合ってつもる話を、いつもの早口でしていることでしょう。生前、キンキンは「ミイ母さんは、やさしかった。オレに甘かったよ」と何度もいうことがあった。私がキンキンに「煙草をやめなさい」「甘い菓子はダメ」と、彼の好きなことにダメ出しする時だった。でも、いつの間にか、煙草もやめ、甘い菓子もそう口にしなくなった。

 いつだったか、そう、五、六年前の春、五目寿司を食べながら私に向かって「なんか、カミさん(私のこと)がミイ母さんに似てきたな」と呟いたことがあった。私は台所に走ってエプロンの裾で涙をぬぐった。「ミイ母さんに似てきたな」といわれたことが、私には最高のほめ言葉だったからだ。

 

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 この原稿を書き終えて、思いがけずキンキンの引き出しの下から、新曲「ルンバ京浜急行四〇〇クラブ」を発見した。やはり、戦争反対を歌っていた。これが、キンキンの遺言といえるだろう。

ルンバ京浜急行四〇〇クラブ

作詞・作曲 愛川欽也

僕たちは戦争を知らない
子供達なんて言わないで
頼むから戦争はきらい
子供達だって言って欲しい
京浜急行の赤い電車が
その町を走ってた
大森海岸の駅のそばだった
ヨシ子は青い眼の兵隊と出会った
青い眼の兵隊は朝鮮戦争で
死んでしまった
帰ってこなかった
時は流れ
ヨシ子はすっかりお婆さんになって歩いてる
今も時々
大森海岸を
ヨシ子は静かに歩いている

泳ぎたくない川
愛川欽也・著

定価:本体600円+税 発売日:2015年07月10日

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