- 2014.12.29
- 書評
究極の麻薬「デジタル・ヘロイン」
その泥沼から脱するために
文:岡田 尊司 (医学博士・岡田クリニック(心療内科)院長)
『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』 (岡田尊司 著)
しかも、近年明らかとなってきたのは、インターネット依存、インターネット・ゲーム依存の人の脳では、神経線維の走行がおかしくなり、行動や感情のコントロールにかかわる領域が委縮し、社会性や注意力、記憶にかかわる領域でも異常が起きているということだ。危惧されていたとはいえ、まさかそこまでと思っていたことが、現実となっている。依存症に陥ってしまえば、「デジタル・ヘロイン」は、麻薬と変わらない作用を及ぼすのだ。
脳もコンピューターも、情報処理装置という点で変わらない。無理な負荷をかければ、パソコンの動作がおかしくなるように、脳にも大差のないことが起きてしまう。残念ながら、パソコンなら初期化できるが、脳はそうはいかない。動きが鈍ったままに、使い続けるしかない。大人も心配だが、もっと危惧されるのは、脳が発達途上の子どもたちだ。大切な時間が奪われるだけでなく、注意力や社会的機能の低下によって、将来までも奪われかねない事態となっている。忌まわしいことに、デジタル・ヘロインが、その麻薬的な本性を現すのは、学業や社会適応に躓いたときである。「負け組の麻薬」として、さらに力を奪い、再起を困難にしている。それゆえ、本書が力を注いだのは、依存の泥沼から脱するためには、どうすればよいか、どうサポートすればよいかという実践的な対策である。
それにしても、書き終えて改めて思うのは、現代の社会においては、売れる商品ほど「麻薬化」せざるを得ないということだ。心の隙に入り込み、多くの人が中毒しなければ、爆発的に売れる商品にはなりえない。それゆえ、優れた技術やアイデアというものは、恩恵をもたらす一方で、必然的に麻薬性をもつ。我々は、技術のもつ利便性と麻薬性という両刃の剣をいかに操りながら、健康と正気を保つかという際どい課題を突きつけられている。
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