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人気時代小説「御宿かわせみ」が描く<br />「世界に開かれた日本」という理想

人気時代小説「御宿かわせみ」が描く
「世界に開かれた日本」という理想

文:島内 景二 (文芸評論家)

『新・御宿かわせみ 千春の婚礼』 (平岩弓枝 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

麻太郎は2度目の留学へ

 大河シリーズ「かわせみ」は、新時代を描く「新・かわせみ」の5冊によって、画期的な異文化統合システムへと成長したと言ってよい。欧米に学び、教育者として自立した職業女性を目指す花世。双生児を忌む日本の風習などを、欧米と比較して糺したいと思う麻太郎。麻太郎を筆頭とする「かわせみ」の第2世代の若者は、悩みながらも、大きな文化プロジェクトを成し遂げてゆく。

 だから、「新・かわせみ」を読みながら、「かわせみ」本編で活躍した世代の子どもたちの成長をたどるのは愉しい。麻太郎の親友で、司法界への道を歩む畝(うね)源太郎は、花世と結婚しているが、このたびの新刊『千春の婚礼』で、男児に恵まれる。そして、麻太郎の妹の千春も、華族で音楽の道に生きる清野凜太郎と華燭の典を挙げる。

 そして、麻太郎は医学の道をさらに極めるために、2度目の留学の旅に出る。しかも、その船旅には、華族の一条結子(ゆいこ)も、女医となるべく同行している。一条結子という名は、明治天皇の后である昭憲皇太后の本名が、一条美子(はるこ)であることと関係があるのだろうか。

 かくて、麻太郎と結子は、イギリスへの留学に出発した。麻太郎は、さらにアメリカでも最先端の医学を学ぶ計画である。思い返せば、「新・かわせみ」は、麻太郎が最初の留学から帰国した時点から始まっていた。その時、幕末の日本を照らした太陽・神林東吾の姿はなかった。

 麻太郎の二つの留学のはざまに、「新・かわせみ」シリーズの5冊があったのだ。麻太郎は、完璧な「東吾二世」へと成長した。太陽は再び昇った。それと呼応するかのように、るいも愛する東吾の「死」の事実を受け入れる。これからの麻太郎は、「麻太郎一世」として生きてゆくだろう。

 父の世代が願った「世界に開かれた日本」という夢を、罪を憎んで人を憎まない太陽のような明るい心で、作り出してゆく。それが、麻太郎に与えられた天命である。

 21世紀の日本と世界は、東吾や麻太郎の志を継ぐ男たちや、るいの思いを伝える女たちを必要としている。「新・かわせみ」シリーズは、普請中の「メーキング・オブ・近代日本」を描いてきた。その日本文化のアップデートは、今もなお続いている。現在も普請中である日本文化の原点を、開化期を爽やかに生きた青春群像が教えてくれる。

 麻太郎。ボン・ヴォアイヤージュ!

 さらに成長した君の帰国を、るいも、お吉(きち)や嘉助、長助たちも待っている。そして、たくさんの読者たちも。

新・御宿かわせみ 千春の婚礼
平岩弓枝・著

定価:本体1,400円+税 発売日:2015年01月10日

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