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〈特集〉浅田版「新選組」 糸里が生きた「輪違屋」の魂

〈特集〉浅田版「新選組」 糸里が生きた「輪違屋」の魂

「本の話」編集部

高橋利樹(輪違屋十代目当主)×浅田次郎


ジャンル : #歴史・時代小説

浅田 島原が吉原みたいにならなくてよかったですよ。昔の吉原のことをずいぶん調べました。その縁で島原にも興味を持つようになり、二つの花街の違いにも注目してきました。

高橋 昭和二十八年にはまだ太夫道中があり、大門からの道筋には桜、柳、桜、柳と木がずらりと並んでいました。歌舞伎の舞台で描かれる吉原の背景と同じです。

浅田 主人公の糸里は、僕好みの女性に描いたのですが、ご主人の話を聞いているとどんどんイメージが膨らんできて、もっと太夫道中の場面を書き込みたい気持ちになってきました。こうなるともうきりがないのですが(笑)。

高橋 糸里みたいな女性は……どうでしょう。ただ昔は、たいてい借金の抵当(かた)で売られてきた子ばかりですから、どんなことでも辛抱できます。今どきの子はお客さんに、「俺がついてないとダメだ」なんて思わせられません。彼女たち、一人で生きていけるもん。

浅田 お客にそう思わせるかどうかは大きな違い。そこが昔と今のサービス業の違うところですね。

高橋 お座敷ではすごいご馳走が出て、歌って踊ってお酌してパーッと盛り上がる。ところが華やかな宴が終わって、奥座敷の行灯(あんどん)が消え、表の提灯(ちょうちん)も消えて大門が閉まるとき、お客さんを見送る彼女たちの肩にフッとさびしさが出る。「お父ちゃん、お母ちゃん、どないしてるやろ。病気は治ったやろか」「今日のご馳走、国においてきた弟や妹に食べさしてやりたいな」とか。今どきの子にはそういうのがありまへん。

浅田 なるほど。そこでお客が「俺がついてやらなければ」って思うんですね。

高橋 「こいつはわしが面倒見てやらなあかんな」と思わさなあかんのに、今は思わさへんのばっかりや(笑)。

浅田 実は、糸里が輪違屋にいたのか、それとも他の置屋にいたのかはっきりしないのですね。

高橋 なんにも記録が残ってませんね。

浅田 糸里という名前は、子母澤寛の『新選組始末記』以外の文献には出てこない。永倉新八も糸里という人物がいたとは証言してはいますが、やはりはっきりしない。糸里の親友で桔梗屋の吉栄(きちえい)という芸妓にしても、どこをどう探しても史料には見当たらない。

高橋 桔梗屋という揚屋はありました。僕が生まれるずっと前です。でも、桜木太夫はうちにいたんですよ。

浅田 桜木太夫の伝説は残っているんですか。

高橋 ええ。幕末の名妓で、最初は桂小五郎の、次は伊藤博文の二号さん。最後は尼さんになりました。桜木太夫が和歌を詠むっていうシーンが出てきますが、あれは……。

浅田 あの歌は僕のオリジナルでございます。オチをつけたつもりなんだけれども、こちらにご迷惑を……。

高橋 まさか。どんどん作って(笑)。最近では、うちの太夫に先生のご著書に出てくる言葉使わせていただいてます。「置屋にお礼するなら、あなたのいちばん大事なものを差し上げてちょうだいよ」って。

浅田 おなごの大事な……。

高橋 体しかないやんね。今の時代は冗談ですけどね。

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