あらためて『生誕祭』のおさらいをしておくと、主人公は堤彰洋。まだ二十一歳の若者だ。もともと六本木のディスコで黒服のバイトをしていたところ、幼馴染みの三浦麻美と出会い、彼女からMS不動産の社長である齋藤美千隆を紹介された。それから彰洋は美千隆のもとで働き始め、口八丁手八丁で地上げの仕事をこなしていく。求める土地を手放そうとしない相手には、家族の弱みをつくりだしてまで奪い取る。あるとき彰洋は、美千隆から波潟昌男を紹介された。地上げの神様と呼ばれる男だ。しかもこの波潟の愛人は三浦麻美だった。麻美は、大学で波潟の娘である早紀と知り合い、早紀の父親に取り入った。波潟はありあまる金を持っているからだ。
かくして彰洋は、王国を築きたいという齋藤美千隆の野望のもとで大金を動かす快楽におぼれていく。そんな彼は、熱心なクリスチャンだった祖父の形見である十字架のペンダントをつねに身につけていた。祖父の口癖は「嘘をついてはいかん。人を騙してはいかん。人の物を盗んではいかん」。神の教えだ。それら心に刻まれた戒めの言葉を彰洋はことごとく破っていく。バブルの最先端で生き抜くためには、甘っちょろい良心を捨て去らねばならない。だが億単位の金を動かす快感と同時に、大いなる背徳感が心の裏で彰洋を責めたてる。そんな日々が続き、心はむしばまれ、より大きな刺激や快楽を必要としていく。彰洋は、まるで悪魔に魂を売ったかのごとく悪の道を突き進むのだ。
当然、その果てに待っているのは地獄の底にほかならない。『生誕祭』は、そうした二律背反なる思いに引き裂かれる人間の罪深い魂のゆくえを追っていた。
では、それから十年後を描いた『復活祭』はどういう筋書きをもった物語なのか。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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