『復活祭』単行本刊行時のインタビューで馳星周は、次のように語っていた。「元々、続編は考えてなかったんだけど、『生誕祭』は自分の小説では珍しく主要な登場人物が死んでいないのもあって(笑)」。『生誕祭』で生き残った二十歳そこそこの男女が十年たってどのように成長したか、その姿を書きたかったという。なるほど、バブル崩壊ですべてを失った連中が、ふたたび成功の夢を求め、人生の第二ラウンドに挑みかかる話といえるだろう。もちろん舞台となっているのは、夜の世界であり、法からはずれた裏社会である。彰洋らは、あの手この手で株の売買による経済ゲームをしかけていく一方、かつて冷酷なまでに裏切られ捨てられた女たちの恨みによるたくらみで、彰洋もまた欺かれ、罠にかけられる。『生誕祭』の単なる繰り返しでは終わらない。
なにより今回より強く打ち出されているのは女性たちの存在だ。クラブ〈エスペランサ〉の雇われママである麻美と、故・波潟昌男の娘である早紀が物語の鍵をにぎっていくとともに、西麻布のバー〈TOKYO CALLING〉の天宮恵が彰洋の恋人として登場する。前作は、堤彰洋、齋藤美千隆、三浦麻美のトライアングルを中心としたクライム・ノヴェルだったが、本作は欲望と復讐にとりつかれた男女の群像劇といったほうがふさわしいだろう。なかでも目をひくのは波潟早紀の変貌ぶりである。『生誕祭』ではブランド品に身をつつんだ金持ちのお嬢さんでしかなかったが、今回は、復讐の女神として彰洋らを破滅させるべく精力的に動き回る。
はたしてだれが勝利者として生き残るのか、そのゆくえをたどる面白さにあふれている本作。『生誕祭』は上下巻の大長編だったが、こちらは一巻でおさまっている分、よりストーリーの緊密度が高まっており、金融サスペンスとしての醍醐味をじゅうぶんに味わえるだろう。
思えば馳星周は、続編を書くことはあっても、同一主人公によるシリーズものをほとんど書いていない。なによりデビュー作『不夜城』(角川文庫)は、その後に発表された『鎮魂歌』『長恨歌』(いずれも角川文庫)とあわせて〈不夜城三部作〉として完結したものの、『不夜城』の主人公だった劉健一も、最後は脇役の側にまわっている。今回の『復活祭』も同じような形で、単なるシリーズ続編にとどまってはいない。
また、〈不夜城三部作〉は、眠らない街・新宿の中国黒社会の闘争を描きつつ、闇の帝王である楊偉民の絶対的な支配を壊し、彼を殺すという主題を備えていた。すなわち「王殺し」「父殺し」が隠れたテーマだった。そういうことでいえば、前作『生誕祭』は、地上げの神である波潟昌男を王の座から引き下ろす話だともいえる。ならば『復活祭』は、新しい王位の奪い合いだ。できるだけ大きな金額をもっとも効率よく稼ぐ者が王様となる世界。まさに金がすべてという資本主義社会そのものの暗部が本作にはとことん描かれているのだ。
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