リウの後ろに続いて、エレベーターで五階に上がり、社長室へ向かう。
他の階とは違い、このフロアに受付はない。柔らかなカーペット張りの広々とした入口の先には、第二ライブラリーと呼ばれる図書室があり、手前の区画は社内スタッフであれば誰でも閲覧することができる。本だけではなく映像資料も豊富に揃っていて、右手にあるコンピュータ・ルームでは、デジタルクラウド化してある映像を自由に見られるのだ。左手には日当たりのいい小さなカフェまで用意され、見晴らしのいい窓から景色を望みつつ、調べ物の最中に息抜きをする。壁にはリンクスがこれまで手がけてきた作品のポスターが貼られている――ただしスタッフの中には、誇りのつもりで掲げられたこれらがかえって過去の思い出を刺激して、つらい気持ちになる人もいるという。
カフェへの蔵書の持ち込みは禁じられているため、閲覧の際は並んだ書架の奥にある閲覧コーナーを使う。大学の図書室を思わせる焦茶色のテーブルと椅子が三十組ほど、そして布張りの三人掛けソファとローテーブルが十組ほど用意され、今日はどこかの部門のアーティストがふたり、それぞれに本を読んでいた。どちらも耳にイヤホンを突っ込んでいるので私たちに気づいた様子はなく、本に没頭している。
先頭のリウの白衣みたいに大きなシャツが翻るのを追いかけ、次の区画へ向かう。
突き当たりは一面磨りガラス張りの第一ライブラリーで、入るには事前に許可を得なければならない。乳白色のガラスのドアの手前には警備員までいる。しかも噂では、ジェイソンのようなスーパーバイザークラスでもなければ、たとえ申し込んでも許可が下りないという。きっと社外秘などの貴重な記録類が保存されているのだろう。フリーランスであちこちのスタジオを渡り歩くのが好きな放浪民の私はどうなるのか気になるけれど、試したことはない。
リウは第一ライブラリーを守るガラス壁の前を右へ曲がって、「エイブリーズ・ルーム」のプレートを掲げた赤いドアの前で、IDカードを横のセキュリティ装置にかざした。カチリと軽い音とともにロックが外れ、自動で内側に開いた。まるでSF映画だ。
ここまで来て、やっと社長室受付にたどり着く。三十代くらいの男性の受付係が、まるで教壇みたいな形のテーブルの向こうで立ち上がり、私たちひとりひとりの顔とIDを確認する。
「社長はまだいる?」
「ええ、まだ」
リウの質問に苦笑で答えるあたり、彼も社長の放蕩ぶりには手を焼いているらしい。