- 2018.01.15
- インタビュー・対談
ふたり芝居『家族熱』、連続ドラマ「春が来た」制作者が語り合った向田作品の魅力と可能性【前編】
合津直枝(テレビマンユニオン) 松永 綾(WOWOW)
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#エンタメ・ミステリ
女の激情を短篇で解禁
合津 直木賞受賞作の「犬小屋」「かわうそ」「花の名前」の三本が収められているのが、『思い出トランプ』ですけれど、この一冊は、実はほとんどが不倫の話なんです。編集者の方からのお題だったのかもしれませんけれど。二〇一一年にNHKの番組(『おまえなしでは生きていけない~猫を愛した芸術家の物語~』)で、向田さんの人生と作品をたどる番組を作った時に改めて思ったんです。向田さんは非常に強い方だったけれど、人知れず泣いたことだってあったはずだ、って。
私が思うに、いちばん最後に大きな涙を流したのは、四十六歳で乳がんになった時。ご自身でももう長くないかもしれないと思われたのでしょう。遺書のようなつもりで『父の詫び状』も書かれたとおっしゃっています。お父さまもすでに亡くなられていましたし、秘めていた女としての激情の蓋を一気に解禁したんじゃないかと思うんです。乳がんの手術後、もうとり繕ったようなものではなく、生々しいものをお書きになろうとした結果、『思い出トランプ』が生まれたのではないか、と。それにしても全編が不倫というのはすごいですよね(笑)。
松永 今から四十年近く前の時代ですしね。でもちっとも古びていなくて、響いてくる作品ばかりで驚きます。
合津 愛人は地味なんだけれど、その思いの深さたるや……というね。本当にナマの女の感情がここまで出てくると、むしろ気持ちいい。『寺内貫太郎一家』でも、梶芽衣子さんの演じる長女が、妻子ある方と恋愛したりもしますが、初期はその程度で。乳がんの手術後、『家族熱』で少し抑えめに、そして『思い出トランプ』で女の激情を解禁、ついにそれが『阿修羅のごとく』で爆発、って、勝手に自分の中では思っているんですけど(笑)。
私が面白いと思うのは、向田さんより四歳上の橋田壽賀子さんは、東京五輪のあった六四年に『愛と死をみつめて』というドラマの脚本を書いてメジャーになられた。難病の恋人に尽くすストレートな感動物語で、今にいたるホームドラマの型をつくられ、今もご活躍されている。それに対して、やや遅れてテレビの世界に入った向田さんは、家族にも謎も嘘もあるということを承知した上で、家族を描いている。スタイルが対照的な気がしていて。もし向田さんがご健在だったら、どのようなものを書かれていたのか……。対談は後編へつづく>>
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