別冊文藝春秋

『レフトハンド・ブラザーフッド』知念実希人――立ち読み

文: 知念 実希人

電子版18号

 少し身を引いた彩夏は包み込むような笑みを浮かべた。二人の視線が絡みあい、そして融け合っていく。

「大丈夫。全部受け止めてあげる。全部忘れさせてあげる」

 彩夏はタンクトップの裾に手をかけると、焦らすようにたくし上げていく。岳士は息をすることすら忘れ、次第に露わになっていく嫋やかな曲線に魅入られていた。

 上着を脱いだ彩夏は、ポニーテールにしていた髪をほどく。ふわりと髪が広がった瞬間、柑橘系の爽やかな香りが鼻先をかすめた。

「どう?」

 彩夏は手にしていたタンクトップを芝居じみた仕草で放り捨てる。しかし、薄い布に包まれた二つの豊満な膨らみに意識を吸い寄せられている岳士に、答える余裕などなかった。陶器のように白く滑らかな肌は、それ自体が淡い光を宿しているように見えた。

 荒い呼吸で前のめりになる岳士を見て、可笑しそうに含み笑いを漏らすと、彩夏は自らの背中に両手を回した。金属のこすれ合う小さな音が、やけに大きく聞こえる。

 彩夏の胸元を覆っていたブラジャーが重力に引かれ、はらりとフローリングの床に落ちると同時に、岳士の意識は真っ白に塗りつぶされる。

 気づいたときには、ベッドに押し倒した彩夏にのしかかり、その乳房に両手の指を食いこませていた。彩夏は小さく悲鳴を上げる。しかし、その声に恐怖の色はなく、我を忘れている岳士の反応を楽しんでいるようでさえあった。

 乱暴な行動を自覚し、理性が止まれと告げる。しかし、両掌に伝わってくる、沈み込むような淫靡な柔らかさに刺激された本能が、岳士の体を突き動かした。

 岳士は鷲掴みにしている双丘にかぶりつく。溶けるような柔らかさを味わっていた舌先に、硬く尖った感触をおぼえた。彩夏の苦しげな吐息がさらに官能を掻き立てていく。

 取り憑かれたように彩夏を堪能していた岳士の体が小さく痙攣する。組み敷かれた彩夏の手が股間に伸び、はち切れんばかりにジーンズを突き上げているものに添えられていた。白く小さい手がジーンズ越しにそれを撫でる。

 欲望を処理するために自らの手で触れるのとは全く異質の快感に、岳士は乳房から口を離しうめき声を漏らす。

「そんなに乱暴にしないでよ。ちょっと痛かったじゃない」

 彩夏は切れ長の目を細めて睨んでくる。わずかに理性を取り戻した岳士は、「すみません」とうなだれた。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版18号文藝春秋・編

発売日:2018年02月20日


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