書評

「意地」を貫き通すなかで光を放ち、一層かがやく、周五郎の世界の男たち #1

文: 沢木 耕太郎

『裏の木戸はあいている』(山本周五郎 沢木耕太郎 編)

『裏の木戸はあいている』(山本周五郎 沢木耕太郎 編)

 三十代に入ったばかりだった私に、あるとき、新潮社から意外な申し出が舞い込んだ。新潮社の新しい日本文学全集「新潮現代文学」の一巻に山本周五郎を充てる予定だが、ついてはその巻の解説を書いてくれないか、というのだ。

 本来、純文学系の作家のものである文学全集に時代小説家の山本周五郎を収録するというのも珍しかったし、何人かとの抱き合わせではなく、まるまる一冊を充てるというのもあまり例のないことだったように思う。

 その山本周五郎集の解説に私のようなノンフィクションのライターを起用するというのも異例だったはずだ。

 社内でどのような話し合いが持たれたのかわからないが、私は喜んで引き受けた。そして、神楽坂にある「新潮社クラブ」という、新潮社専用の「カンヅメ」用の家に自ら「カンヅメ」になりに行き、机の上に「山本周五郎小説全集」の全三十八巻を積み上げ、十日ほどこもって「青春の救済」というタイトルの解説を書き上げた。

 すると、何年かして、突然、山口瞳から文庫の解説の依頼があった。紀行文『迷惑旅行』の解説だったが、間に入ってくれた編集者によれば、山口さんが「青春の救済」を読んで面白いと思ってくれたのだという。

 山口さんが私の「青春の救済」を読んでいたのには理由があった。

 その新潮社版の新しい日本文学全集は全巻箱入りだったが、箱の表には一巻一巻それぞれ異なる画家の絵がプリントされていた。そして、山本周五郎の巻には、本職の画家ではなく、山口さんの水彩画が用いられていたのだ。山口さんは『青べか物語』の舞台となった浦安に赴き、その風景を写生していた。

裏の木戸はあいている山本周五郎 沢木耕太郎編

定価:本体870円+税発売日:2018年05月10日


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