2018.05.28 書評

「意地」を貫き通すなかで光を放ち、一層かがやく、周五郎の世界の男たち #2

文: 沢木 耕太郎

『裏の木戸はあいている』(山本周五郎 沢木耕太郎 編)

『裏の木戸はあいている』(山本周五郎 沢木耕太郎 編)

【1よりつづく】

「ちいさこべ」

 主人公の茂次は、江戸で暮らす大工の棟梁の息子だ。「大留」の大工たちを率いて、父の名代として川越の現場に泊まりきり、仕事に取り掛かっているときに江戸で大火が起きる。

 その火事で「大留」の家だけでなく父と母を同時に失ってしまうと、そこから茂次の「意地」の人生が始まる。

 この茂次に江戸っ子の意地っ張りぶりを体現させている。

 まず、失われかかった家業の立て直しに際しての頑固さ。親切にも助けの手を差し出してくれる周囲の申し出をにべもなく撥ね付けてしまうのだ。

《「それに、大留をたて直すにしても自分の腕でやってみるつもりです、どうか私のことはうっちゃっといて下さい」》

 こうして茂次の「意地」がひとつひとつ「張り」増されていく。

 だが、この「ちいさこべ」に登場してくる「意地」は茂次だけのものではない。

 再建された「大留」の内向きの仕事を手助けしてくれている娘のおりつが、火事でみなしごになってしまった町外の子供たちを集めて世話を始めてしまう。最初は、茂次も否定的だったが、おりつは一歩も引こうとしない。

 物語は、この二人の意地の張り合いを軸に展開していく。

 もしこれが長編なら、もうひとりの魅力的な女性である質屋の娘のおゆうとおりつとの、恋における意地の張り合いがもう少し多めに描かれることになるだろう。だが、これが短編であるため、おゆうの思いは直接的には描かれない。おゆうは町内で自分の家だけ焼け残ったことに負い目を感じているという娘だ。そんなおゆうに茂次が惹かれていないはずがない。しかし、それを書いていくと、紙数がさらに必要になってしまう。そこで、茂次の、おりつに対する「おい、よく聞け」というすっぱりとした台詞によってエンディングを迎えさせることになった。

  タイトルの「ちいさこべ」については、作中で、学のあるおゆうから教えてもらったとして、おりつの口から説明されている。

 天皇に蚕を集めてこいと命じられた臣下が、誤って子供を集めてきてしまった。蚕も「こ」、子供も「こ」であるため、勘違いしてしまったのだ。天皇は笑って許し、その臣下に「ちいさこべのすがる」という名前を与え、子供たちを養育する責任者としたという。

 これは『日本書紀』に出てくる挿話で、雄略天皇の時代のこととされている。おゆうは、これを踏まえて、「ちいさこ部屋」という言い方をしたのだ。



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