「霧」The Mist
邦訳で二百ページを超え、質量ともに長編並みの充実度を誇る名編。もともとはキングのエージェントでもあったカービー・マッコーリーが企画したアンソロジーDark Forces(一九八〇年)のために書き下ろされました。邦訳は『闇の展覧会 霧』『闇の展覧会 敵』『闇の展覧会 罠』(いずれもハヤカワ文庫NV)として三分冊で刊行されています。
ハーラン・エリスンによるSFアンソロジー『危険なヴィジョン』のホラー版を意識したともされる『闇の展覧会』は、デニス・エチスンやエドワード・ブライアントといった現代ホラー作家の作品のみならず、SF作家(ジーン・ウルフ、クリフォード・シマック、リサ・タトル)や巨匠(レイ・ブラッドベリ、ロバート・ブロック、シオドア・スタージョン)、さらにはエドワード・ゴーリーまでも網羅し、「ホラー」という言葉でくくられる文芸作品の多彩な断面を見せつけています。モダン・ホラーの時代を告げる一冊となった『闇の展覧会』は、世界幻想文学大賞・短編集部門を受賞しました。
キングによれば、「霧」の冒頭の文章はアメリカ作家ダグラス・フェアベアンの長編小説『銃撃!』(ハヤカワ・ノヴェルズ)から拝借したもので、これが小説全体のリズムを決定づけたといいます。これはなかなか興味深い話で、というのも、田舎を舞台にした犯罪小説とでも呼ぶべき『銃撃!』は、しかし、「犯罪小説」とひとくちに言えない一種異様な雰囲気の小説だからです。
ひょんなことから山中で勃発する銃撃戦を小説の中心に据えながらも、西部劇めいた痛快さは皆無で、むしろアメリカの田舎町の閉塞と病理の気配が色濃く漂っているのです。この異様な気配は、アメリカ南部の恐怖を描いたジェイムズ・ディッキーの名作『救い出される』(新潮文庫)に通じるもので、この二作をつなぐ田舎=暴力=病理=恐怖の構図は、もちろんキング作品にダイレクトにつながります。そういう意味で、『銃撃!』と『救い出される』は、キング・ファンなら手を伸ばして損のない小説ではないかと思います。
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