- 2016.01.25
- 書評
お帰りなさい、恐怖の帝王――スティーヴン・キング流ホラー、ここに再臨
文:東 雅夫 (文芸評論家)
『悪霊の島』 (スティーヴン・キング 著/白石朗 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
二〇〇九年九月、文藝春秋から本書の単行本版が上下巻で刊行され、書店の平台に積み上げられているのを目にしたときの昂揚と感慨は、今でも鮮明に記憶している。
その帯には、黒地に白抜きで、次の惹句が(どこかしら誇らしげなたたずまいで)大書されていたのだ。
《恐怖の帝王》、堂々の帰還。
孤島にひとり住む男に静かに迫る忌まわしいもの。
キングが本領を発揮する圧倒的恐怖小説。
そこでは、キングの代名詞ともいうべき「ホラー」もしくは「モダンホラー」というタームを使わず、あえて「恐怖の帝王」「恐怖小説」と、二度にわたり「恐怖」という言葉が強調されていたのである。しかも「堂々の帰還」という言葉を添えて。
帯文を考案した(と推測される)担当編集者の意図は、明白に思われた。
一九七四年のデビュー長篇『キャリー』を皮切りに、『呪われた町』(七五)『シャイニング』(七七)と続く初期の傑作長篇に脈打っていた恐怖の奔流――かつて、いかなる作家の手によっても書かれることのなかった未曾有(みぞう)の恐怖、豊饒なるストーリーテリングで読む者を圧倒するキング流恐怖小説が、ここに再臨したことを、その帯文は予告していたのだった(ちなみに初期作品が邦訳された七〇年代後半には、日本で「ホラー」という言葉は未だ定着しておらず、キング作品はもっぱら「恐怖小説」と呼ばれていた)。
しかも邦題は『悪霊の島』(原題は『デュマ島 Duma Key』)――さながら、あの『呪われた町』と好一対を成すようなタイトルではないか。「悪霊」という言葉に『シャイニング』のオーバールック・ホテルに棲みついていた不穏な住人たちを、懐かしく想起した向きもあろう。日本版キング本が誇る藤田新策のカバーアートにも、なにやら曰くありげな一対の少女が、浜辺に打ち寄せる波をめくりあげる光景が描かれていて……。
私が期待に舌なめずりしながら、上下巻一千ページを超える本書を一気呵成に読み終えたことは申すまでもあるまい。
もとより、期待が裏切られることはなかった。
『スタンド・バイ・ミー』のキングも、〈ダーク・タワー〉シリーズのキングも、決して嫌いではないけれど、やはりキングの真価は、物語のクライマックスにおける臆面もない超自然的恐怖のつるべ打ちにこそあり……と信じてやまない根っからの怪奇党読者の一員としては、ひさびさ干天の慈雨に思うさま身を浸す心地がしたものだ。
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