「ほら、虎がいる」Here There Be Tygers
学校を舞台とした幻想小説風の一編。授業中にトイレに行くはめになった生徒の視点で語られる掌編ですが、主人公が見るがらんとした校舎の薄気味悪さは、洋の東西を問わず身近なものなのでしょう。日常がスムーズに非日常にすべりこむ瞬間の鮮烈さが印象に残ります。
なお同題の短編がレイ・ブラッドベリにあり、『ウは宇宙船のウ』(創元SF文庫)に「この地には虎数匹おれり」の題名で収録されています。「虎」が「tiger」ではなく「tyger」になっているのは、詩人ウィリアム・ブレイクのThe Tygerに由来するとされています。
初出はメイン大学が刊行する文芸誌Ubrisの一九六八年春号。『キャリー』でのデビュー前、キング最初期の作品のひとつです。
「ジョウント」The Jaunt
昔ながらのSFを意識した短編。語り口も古きよきSFを意識しているようで、もともとはOmni誌向けに書かれたものの、「科学的な裏付けが薄弱」とのことでボツになったとの由。結果、初出はホラー/ファンタジー系の雑誌Twilight Zone(一九八一年)。
SFファンなら題名を見ただけで、「ジョウント」と呼ばれるテレポーテーションが登場するアルフレッド・ベスターの名作『虎よ、虎よ!』(ハヤカワ文庫SF)を思い出すでしょう。本作はテレポーテーション技術が確立された未来を舞台としていますが、作中でもちゃんと、この技術の語源としてベスターの同作品について言及されています。ジョウントにより火星への旅に出る一家の物語と、ジョウントを開発した科学者の物語が交互に語られていきます。最後に姿をあらわすものを描写する筆は、まさにキング一流。
ちなみにさきほど触れたウィリアム・ブレイクのThe Tygerは、ベスターの『虎よ、虎よ!』の冒頭に引用されています。
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