「ノーナ」Nona
悪しきものの及ぼす影響が人間の暴力性となって激発する――というモチーフは、スティーヴン・キングが『IT』『シャイニング』『ザ・スタンド』などなどで繰り返し描いてきたものです。本編もそのひとつ。ホラー作家チャールズ・L・グラントが編者を務めるアンソロジーShadows(一九七八年)のために書き下ろされました。
チャールズ・L・グラントはモダン・ホラーの潮流のなかで、ムード重視の「静かなホラー」を標榜した作家で、同アンソロジーもそんなコンセプトで編まれたとのこと。キングによる本編も主人公の綿密な心理描写を前面に出していて、暴力をテーマとしながらも、恐怖の核心は、暴力の物理的噴出よりもそこに至る心理の異様さに置かれています。殺人の病理をねじれた一人称の語りで描き出そうとする手法には、キングが愛するパルプ・ノワール作家ジム・トンプスンの『おれの中の殺し屋』(扶桑社ミステリー)などからの影響も感じ取れます。
なお、主人公がすべての事件のあとに回想を書き綴っているという大枠や陰鬱なムード、そして邪悪な何かの象徴として群れ蠢くネズミたち、というモチーフは、後年の傑作中編「1922(*3)」(『1922』収録/文春文庫)と共通します。
「カインの末裔」Cain Rose Up
こちらもUbris誌(一九六八年春号)に掲載された短い作品。スーパーナチュラルな要素はなく、しかしそれゆえに恐ろしい――敢えてジャンル分けするなら――犯罪小説。ここで何の説明もなく主人公の内部に噴出する「恐るべき何か」の謎を解こうとする思考から、スティーヴン・キングのホラーは生み出されるのではないかとも思えます。
本編に通じる長編をスティーヴン・キングはリチャード・バックマン名義で発表しています。『ハイスクール・パニック』(扶桑社文庫)がそれです。しかし一九八〇年代末から九〇年代前半にかけて起きたアメリカの高校での銃乱射事件について同作との関係が取り沙汰され、一九九七年にケンタッキー州のヒース・ハイスクールで起きた銃乱射事件で犯人のロッカーから同書が発見されたことを機に、キング自身の意向で絶版とされました。
キングは銃規制を支持しており、二〇一三年には前年末に起きたサンディ・フック小学校銃乱射事件を受けて、Gunsというエッセイを電子出版しています。『ハイスクール・パニック』絶版についても触れられており、このエッセイからあがる利益はすべて、銃規制のための団体「ブレイディ・キャンペーン」に寄付されるということです。
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