- 2018.06.25
- 書評
舞台は、戦闘機開発の最前線! 高度なものづくりを描く<お仕事小説>
文:吉野 仁 (書評家)
『リヴィジョンA』(未須本有生 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ここで、あらためて『推定脅威』についておさらいしておこう。
領空侵犯が疑われる国籍不明の航空機に対処するため、小松基地から自衛隊の航空機TF−1がスクランブル(緊急発進)した。ところが追跡していた一機が墜落し、パイロットは命を落とした。この機を開発した四星工業はただちに事故を調査し、「パイロットの操縦ミス」との結論をくだした。だが、TF−1技術管理室の永田昌彦は、その判断に違和感をぬぐいきれず、かつて同機の開発にかかわった元同僚で現在はフリーのデザイナーである倉崎修一にアドバイスをもとめた。そこで永田の部下、沢本由佳が倉崎と会うことになり、ふたりは事故の経緯や背景を探る。
そして半年後、TF−1がまたもやスクランブル中に墜落事故を起こした。脱出したパイロットの証言から、侵入機に誘導され事故を起こした可能性が浮上した。沢本は、もし二件の事故が同一犯によるものならば、TF−1に関して技術的に熟知した者が関与しているのではないかと指摘する。やがて調査により、謎の美女をはじめ、事件の裏側で暗躍する者たちの姿があぶりだされていった。
このように『推定脅威』は、TF−1機墜落の真相をめぐる航空サスペンスであるとともに、主人公をつとめる女性技術者・沢本由佳の活躍を追う成長ドラマでもあった。
もともと『推定脅威』は、二〇一四年、第二十一回松本清張賞の受賞作だ。選考委員をつとめた葉室麟は選評で「スタートからして大がかりな仕掛け」があり、「クライマックスでは実際に自衛隊機のコックピットに乗っている臨場感を味わった」とし、この小説のもつ「緻密な専門知識がもたらすリアル感」を評価していた。そして「同時に、この作品は、どこかで現実とリンクしている」と指摘している。同じく選考委員の石田衣良は「とにかくフライトシーンのリアルさと情報量が圧倒的で、これまでの航空冒険小説の群を抜く」と絶賛し、「きけば作者は実際にジェット戦闘機の開発に関わっていたエンジニアだという。デビュー即日本一の航空小説の書き手は間違いない」と続けていた。
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