- 2018.06.25
- 書評
舞台は、戦闘機開発の最前線! 高度なものづくりを描く<お仕事小説>
文:吉野 仁 (書評家)
『リヴィジョンA』(未須本有生 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
もっとも先の松本清張賞の選評では、小池真理子が、「ヒロインの沢本、という女の子」の「姿かたちが浮かんでこなかった」と厳しい意見を述べていた。「類型化された既視感のある性格設定」という印象が強いという。だが、あえてまだ経験の浅い女性技術者を主人公にすえたことで、航空機開発をめぐる経緯をはじめ、あらゆる現場の生々しい様子など、よりわかりやすい形に描かれているのではないか。読者の大半にとっては、まったく未知の世界であるに違いない。
そして、『推定脅威』を読みながら興味深かったことのひとつは、いかにハイテクの粋を集めて完成されたと思しき航空機といえども、まだまだ問題を抱えているということだ。実際に、航空機事故は世界中さまざまなかたちで発生している。わが国では、最近、福岡空港に着陸した旅客機のタイヤがパンクして動けなくなり、滑走路が二時間半閉鎖された事態をはじめ、米軍三沢基地を離陸した直後のF16戦闘機のエンジン部分から出火し、燃料タンク二本を上空から緊急投棄した件、もしくは航空自衛隊百里基地で離陸直前だった戦闘機の機体から出火したという事故などが起こっている。また、沖縄では米軍ヘリの墜落や窓枠の落下などが相次いでおり、そのほか旅客機の燃料漏れ、機体やエンジンの不具合といった出来事を数えあげればきりがない。軽微な故障ならば日々あちこちで起きていると考えてもおかしくないだろう。なにより航空機産業にかぎらず、この数年、日本を代表する大手製造業者において検査データの改竄をはじめ数々の不正や不祥事が立て続けに表面化しているではないか。
一方で、二〇一七年四月に、平成二十八年度、日本領空に接近した軍用機などに航空自衛隊の戦闘機がスクランブルした回数が千百六十八回だったという防衛省の発表があった。前年度比で二百九十五回ほど増加しており、過去最多だという。近年、東アジアでは、北朝鮮の核開発や中国による海洋進出など、武力衝突の可能性さえ懸念される状況が進行している。先に引用した葉室麟の選評、「この作品は、どこかで現実とリンクしている」という言葉が強く思い起こされる。
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