- 2018.06.25
- 書評
舞台は、戦闘機開発の最前線! 高度なものづくりを描く<お仕事小説>
文:吉野 仁 (書評家)
『リヴィジョンA』(未須本有生 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
こうした一連の背景をふまえると、本作『リヴィジョンA』は、『推定脅威』における現実とのリンクをさらに強めるかたちで創作された小説ではないか。前作の設定をそのまま受け継ぎ、それから約二年後の話だが、時代の変化もそこに反映して書かれている。しかし『推定脅威』が墜落事故の謎をめぐる航空サスペンスだったのに対し、本作『リヴィジョンA』はあくまで航空機改修開発に焦点があてられている。いわば、大がかりで高度なものづくりに携わる人たちをとらえた〈お仕事小説〉の醍醐味を打ち出しているのだ。
お菓子作りのパティシエ、役所で奮闘する公務員、優れた本を読者に届けようとする書店員など、近年、働く人たちの現場を生き生きと描いた小説が人気を集めている。言うまでもないが、いかなる職業であれ、職場であれ、それなりの苦労や問題はたえない。思いもしない事態が次々と発生する。たとえ抜きん出て優秀な人物が表に立ち完璧に仕事をこなしていったとしても、関係者が単純なミスをしたり、外部から横やりがはいって混乱したり、天災などの不可抗力で頓挫したりするものだ。多くの困難を克服してようやく仕事は成り立つ。それが働く個人の成長につながる。すなわち、どんな仕事もその過程を細やかに追えば優れたドラマになるのだ。
それでも戦闘機となればスケールが違う。国家的な防衛システムに関わるだけに、予算の金額や関わる企業の規模も大きく、要求される条件がとても厳しくなるのは間違いない。とても過酷な仕事になるはずだ。また、素人考えでは、新しい航空機を一からつくることに比べれば、すでに完成された機体を改修するのは、いくぶん容易なのではないかと思うが、決してそうではないことが本作を読めばよくわかる。莫大な予算の獲得にはじまり、品質管理された細かいパーツの手配など、困難なハードルをいくつも乗り越えなくてはならない。
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