- 2018.08.20
- 書評
僕とミステリ書店〈TRICK+TRAP〉と女探偵・葉村晶の不思議な関係
文:戸川安宣 (編集者)
『錆びた滑車』(若竹七海 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
マニアックな私立探偵を描く推理作家というと、アメリカに、パルプマガジン・コレクターの私立探偵「名無しのオプ」を主人公にしたシリーズを書いているビル・プロンジーニという作家がいますが、わが国では、本が好きで神保町近くに事務所を構える私立探偵、岡坂神策(おかさかしんさく)を主人公にした逢坂剛さんと、わが若竹さんが双璧でしょう。
冒頭で、どの巻から読んでも楽しめると書きましたが、シリーズを通して読んできた読者には、あれ、この人、前の巻のどれかに出てきたんじゃなかったっけ? と、慌てて既刊のページを繙(ひもと)くという、愛読者限定の愉しみが隠されているのです。
さらに、ぼくにはもう一つ別の楽しみがあります。
葉村晶は実に健脚で、ちょっとした距離なら、わざわざ電車に乗って迂回するよりも、直線距離を歩いてしまった方がいい、とでも言うように、実によく歩くのです。
これがぼくには嬉しい。
飯田橋の会社に勤めていた頃、仕事や本を漁(あさ)りに神保町に行く時には、会社から飯田橋の駅まで歩き、中央線に乗って一駅か二駅――水道橋か御茶ノ水に出て、そこから歩いて……と考えると、それならいっそ神保町まで歩いてしまった方が、電車に乗るために階段を上ったり下りたり、電車が来るのを待つ時間や運賃まで考えると、その方がずっと楽だし、愉しい。時間だってそんなに違わない。そう考えるタイプですから、電車の二駅三駅は歩くのが常識。まさに葉村さんは同好の士、なのです。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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