「そう、これだよこれ。この中には、顧客のデータだけじゃなく、チームメンバーの連絡先も入ってた。これを持ったまま逮捕されていたりしたら、マジでヤバかった。助かったぜ」
「それは……、良かったです」
思考がまとまらないまま、岳士は声を絞り出した。
「ただな、ちょっと不思議なことがあるんだよ」
カズマの声が低くなる。
「あの刑事な、俺を逮捕したくせに、ほとんど取り調べもしなかった。それに、俺がサファイヤを受け取った絶妙のタイミングで職質かけてきやがった。まるで、全部知っていたみたいにな」
『やばいぞ、これは……』
海斗の口調に焦りが滲む。
「それに、いま思えば、あっさりとお前にこのスマホを渡せたのもおかしい。普通なら、お前の動きにもっと注意を払っているはずだ。拘置所に閉じ込められている間、ずっとそのことを考えていたんだ」
「なにが言いたいんですか?」
口の中がカラカラに乾燥して、声がひび割れる。
「なにが? そうだな……」
一瞬、視線を彷徨わせたあとカズマは岳士の肩にまわしていた腕をぐいっと引き寄せる。前のめりになった瞬間、鳩尾に重い衝撃が突き抜けた。不意打ちで膝蹴りを食らった岳士は、体をくの字に曲げる。開いた口から零れた唾液が、埃の積もった床に落ちた。
「さっきの質問だよ。お前が俺を売ったのか?」
カズマは薙ぎ払うような下段蹴りを繰り出してくる。両足を払われ、岳士はその場にもんどりをうった。
「なんの……ことですか……」
倒れて腹を押さえたまま、岳士はカズマを見上げる。
「お前さ、あの刑事とグルだろ。あいつに俺を逮捕させて、その代わりにうちのチームに入り込んだ。違うか?」
「違います……、そんなことするわけ……」
必死に釈明しようとする岳士の脇腹に、カズマは爪先をめり込ませる。息が詰まり、胃の内容物が食道を駆け上がってきた。顔を紅潮させたカズマは、続けざまに蹴りを叩き込んでくる。岳士は体を丸くして、蹴りの雨に耐えることしかできなかった。
「そのくらいにしておけって」
少し離れた位置で見ていたヒロキの声で、ようやく攻撃が止む。歩み寄ってきたヒロキは両膝を曲げ、倒れている岳士の顔を覗き込んできた。