- 2018.11.13
- 特集
現金が消える!? 新聞記者が予測、AIが変えるお金の未来とは?
文:坂井 隆之 ,文:宮川 裕章 ,文:毎日新聞フィンテック取材班
『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
VR(仮想現実)の普及で、キャバクラのような接客サービスをただ同然で体験できるようになった。その分というべきか、実際に女性と話すとなると、そこそこかかる。でも、たまにはいいだろう。ネオンがきらめく繁華街から一本入った暗い路地裏で、「業者」にデジタル円と現金を交換してもらった。デジタルのままだと、家計簿アプリを通じて妻に使い道がばれてしまう。業者には、デジタル円の使い道として、当たり障りのない飲食店を表示してもらう。これなら営業だと言い張れる。強盗がいないか周囲を見渡しつつ、ネオン街に戻った。
……店を出て帰りが遅くなり、しかも酔って気が大きくなったX氏はゴーグルを通じて車を呼び、料金交渉が成立したので乗り込んだ。
乗ってしばらくすると、ゴーグルにアラートが鳴った。
「深刻なニュースです。ゴーグルを運営するサイキック社から顧客の生活・資金データが流出しました。被害は日本人ほぼ全ての可能性があります。皆さん、ウォレットからデジタル通貨が流出していないか確認して下さい。また、家の鍵を自動にしているとハッキングで突破される可能性があります。機能を切って下さい」
そんなこと言われたって、機能をどう切るかなんて、家を買った時に説明を受けたっきりで分からないぞ──。はっとウォレットを見たが、デジタル円の残高がゼロになっていた。「Thank you, sir」のメッセージが添えられていた。
呆然としていると、ニュースが追加されてきた。
「サイキック社と情報管理庁が一時間後に共同会見するとのことです。データ流出は、情報管理庁の職員のパソコンからだそうです」
X氏の背筋が凍った。
「なぜ、政府からデータが流出するんだ。もしかして、俺たちの一生のデータは、もともと政府に吸い上げられていたのか?」
ニュートーキョーに立ち並ぶビルの明かりが次々と後ろに流れ、闇に溶けていった。だが、X氏には、車窓を眺める余裕は無かった。
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