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現金が消える!? 新聞記者が予測、AIが変えるお金の未来とは?

現金が消える!? 新聞記者が予測、AIが変えるお金の未来とは?

文:坂井 隆之 ,文:宮川 裕章 ,文:毎日新聞フィンテック取材班

『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班 著)


ジャンル : #ノンフィクション

『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班 著)

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 紀元前六〇〇年、リディア王国(現在のトルコ)で使われたコインに遡る貨幣は、二〇〇〇年以上にわたり、金や銀などの貴金属が価値を裏付けてきた。だが、やがて国家の信頼などを価値の根拠とする信用貨幣が普及し、二〇世紀後半になってオンライン上に取引の場を移した。

 それが、ここわずか一〇年ほどで、貨幣は、スマートフォン上のデジタルデータに姿を変えつつある。

 本書で私たちが示してきたのは、この先さらなる経済・社会の変革が待ち受けているという未来予想図だ。伝統的金融機関である銀行、証券、保険が業務の変革を迫られ、結果として雇用が激減するのは避けられない。むろん伝統的な銀行や証券で働く人の数が減ったからといって、金融業界全体で職が失われると考えるのは早計である。銀行に代わって送金や決済といったビジネスを担うフィンテック企業や、プラットフォーム企業は、新たな雇用の受け皿となる。

 また、金融サービスを通じて集積されたビッグデータは新たなビジネスを生み、それらを担う企業群が、若者たちに新たな働き口を提供するだろう。ただし、それらの新業態が求める人材の質は、これまでの金融業界が必要としてきたものとは全く異なるものになるはずだ。

 そのような社会は、私たちに何をもたらすのだろうか。消費者の立場から見れば、現在では想像もつかないほどの利便性が手に入ることは間違いない。変化に鋭敏でビジネスセンスに長けた人々にとっては、大きな成功の機会が待ち受けていることだろう。だが、あまりに大きな変化は個人や社会にストレスも与える。現状に安住したい企業・個人にとっては、居心地のいい楽園とは言えないかもしれない。

 二〇〇八年にはフィンテックという概念や言葉を知る人も、ビットコインの登場を予想できた人も、世界にほとんどいなかったはずだ。同様に、一〇年先を予想することは不可能に近いほど難しい。私たちは本書で、金融と社会の一〇年後、二〇年後の姿を思い描くという難題にあえて挑戦した。予測の多くは、後世から見れば的外れとの誹りを受けるかもしれない。それでも本書が金融を取り巻く複雑な事象に対する読者の理解の手助けになれば本望である。 複雑で将来が予測困難な時代に、世界を少しでも幸福な方向に向かわせるため、今起きている出来事を冷静に観察する姿勢が必要だと私たちは考えている。本書で取り上げた金融界周辺の人たちの証言や記録の中に、明るい未来を探るための鍵を一つでも見出してもらえたならば、私たち記者にとってこれ以上の喜びはない。

文春新書
AIが変えるお金の未来
坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班

定価:880円(税込)発売日:2018年11月20日

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