- 2018.11.13
- 特集
現金が消える!? 新聞記者が予測、AIが変えるお金の未来とは?
文:坂井 隆之 ,文:宮川 裕章 ,文:毎日新聞フィンテック取材班
『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
ゴーグルを通じて会議が始まった。顧客へのコンサルティングの方針について協議した。資料は前日にAIがまとめてくれているので、顧客の性格や状況を踏まえてどう戦略を立てていくかを議論する。大まかな戦略はAIが立ててしまうので、その上でどう違いを出し、付加価値を生むかが「人間」としての知恵の出しどころだ。会議は三〇分ほどで終わったが、みんな集中しており、内容はいつも以上に充実していた。終わると心地よい疲労を覚えた。
さて、いよいよクライアントのもとへ「出勤」だ。ほどよく空いた電車に乗り込んだX氏は、「そういえば駆け出しのころは通勤ラッシュにもみくちゃにされたな。当時だって、あんな風にみんなで同じ時間に出勤する必要なかったよなあ」と、急に思いだした。
クライアント間を移動する合間には、資産運用の状況をチェックした。運用はロボアドバイザーに一任している。積み立てと、買い物のおつりの自動貯金の二本立てだ。どこもウォーレン・バフェットという往年の名投資家の思考回路をベースにしたAIによる運用が主で、大差なくなってしまったため、リターンは年三%程度だが、こつこつやることが大事だと思っている。この調子ならカメをそろそろ飼えるとゴーグルが見通しを示してくれた。温暖化がかなり進み、は虫類は絶滅寸前。それを飼っていることが社会的ステータスになってしまった。
仕事を終えたX氏は、学生時代の友人Y氏と和食居酒屋に入った。時代がこれだけ変わっても、居酒屋のごちゃごちゃ、がやがやした雰囲気や芋焼酎の味は変わらない。友人はメガバンクの銀行員だ。
「同期の半分はクビになった。あいつもだよ」「そうか……」
分かってはいたが、前向きな話題は少ない。
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