- 2018.11.29
- 書評
ツチヤ先生とタワシ
文:荒井泰子 (大人と子供のための読みきかせの会ピアニスト)
『そしてだれも信じなくなった』(土屋賢二 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
20年前から中井貴惠主宰の読みきかせのグループでピアノを弾いています。絵本に音楽をつけ中井の朗読と手作りの大型絵本の操作に合わせて演奏します。それぞれのお話のために絵本を見ながら曲を作るのですが、そのページを開けば作った音が甦ってくるように曲を体に叩き込み譜にはおこしません。そして公演では絵本を譜面台に置いて絵本を「弾き」ます。先生のメールにははっきりと解説を「書け」とは書かれていませんでしたので解説を「弾いて」もいいのではないか、ご著書をイメージした曲を作りCDにして本編と別売りにするのです。そうすれば、今まで「ツチヤ本ってーのはアレだな、おもしれーんだけど、本編が付いてくるってーのはいただけねーな」と言っていたおっさんも「あら、嬉しいわ。別売りならこの新刊買おうかしら」と言うおばさんと手に手を取ってレジに向かうかもしれません。そこで早速、ゲラを譜面台に置いてみました。たまたまゲラがボール形では無かったから譜面台には置けたものの、一行目を拝読してすぐに自分の試みが失敗だったことに気が付きました。……なんか違う……戸惑いながら一瞬眠ったあと、再認識しました。絵本には無駄な文章が少なくメッセージ性の高いものが多いということを。もちろんツチヤ本にも深遠なメッセージが隠されており(カツカレーはダイエット食である、など)、ムダな文章も一冊につき二冊分はありません。だから絵本とツチヤ本のどこが違うのか明言できないのですが、よく考えてみれば、大学で哲学を教えていらしたという確固たる主張をお持ちの土屋先生のご著書と、基本的に子供のために書かれた絵本とを同じように扱うなんて失礼な話です。いくら絵本が物理的に薄っぺらいとはいえ、その程度は先生の文章の内容には遠く及びません。先生のご著書に曲をつけるなんて申し訳なくて(絵本に)、とてもできないと思い至りました。仕方なく苦手な文章で先生を賞賛することにします(「仕方なく」は「賞賛する」にかかる)。
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