- 2018.11.29
- 書評
ツチヤ先生とタワシ
文:荒井泰子 (大人と子供のための読みきかせの会ピアニスト)
『そしてだれも信じなくなった』(土屋賢二 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
私は幼いころから物まねが好きでした。小3の頃にクラスメイトの長所を全員で書きあった時、ほぼ全員が私の長所を「ターザンの叫び声の真似が上手い」と書いたほどです。高校生になってもアグネス・チャンや天地真理の真似をして友人達に大人気でした。会社勤めを始めてもなお、物まねを披露して同期の友人達に大人気ないとバカにされました(上司や顧客に披露していたらホメられたかもしれません)。ご想像通り、先生の文章に出会ってからの私の物まねの対象は野生人でもアイドル歌手でもなく、貧相なオヤジが書く文章へと退化したのです。土屋先生の文章は、誰にでも書けるように、誰にでも真似できるようにとの先生の思いやりに溢れた高邁な精神を礎に、幼稚に仕上がっています。また、先生ご自身が「読まないことをおすすめする」としつこいほど仰っているように、読まなくていい謙虚な文章です。コツさえつかめば(幼稚園児か土屋先生かのどちらかになりきって)私にも面白いように真似できました。だからといって誰に自慢できる訳でもなく、隠れるようにして作った文章は先生の掲示板に書き込むしかなかったのですが、そこで同じようにヘンな文章を書き込んでいる見ず知らずの人たちに対して同情と哀れみの涙と爆笑を禁じ得ませんでした。ターザンの真似をしてもターザン化はしませんが、先生の文章を真似するとツチヤ化して人間性まで疑われるようになるということが良くわかったのです。土屋先生の掲示板は、先生を中心にした赤のヘン人同士が、競うようにくだらない文章を書き合い、同時にお互いの傷を舐め合う、というような奇妙な可笑しさに溢れていました。
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