- 2018.11.29
- 書評
ツチヤ先生とタワシ
文:荒井泰子 (大人と子供のための読みきかせの会ピアニスト)
『そしてだれも信じなくなった』(土屋賢二 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
グループの中でただ一人ツチヤ化していく私に対する他のメンバーの冷たい視線を感じ始めたある年のある日、中井と私は都内の駅の改札で先生をお待ちしていました。エネルギッシュな人々が忙しそうに行き交う中で、ひ弱な先生が踏み潰されたりしないか、迷子になって泣きながら転んでいるのではないか、ツチヤ本の在庫が増え続けているのではないか、と心配でワクワクしながらご登場を待っていたところ、まるで存在感の希薄さを自慢げにアピールするかのように先生が現れました。そのお姿は、ちょうど、胡蝶蘭に紛れた枯れた盆栽のようでしたが、驚くことに、スキップではなく、左右の足を交互に出して落ち着きの無い顔立ちで改札に向かって歩いてこられました。まだ我々には気が付いていないのか、余裕たっぷりの小股歩きです。「先生!」中井が声をかけたとたん、先生は体全体で慌てふためき、突然全力で走り出したのです。5メートル先の我々に向かって。5メートルの距離を全力疾走って、やりますか?フツー。素晴らしい身体能力です。ジャニーズに入れます(「高齢者お笑い部門」があるとする)。そうすれば逸材を逃した吉本興業が歯ぎしりするでしょう。
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