主人公の月冴は行動力といいものの考え方といい、平安時代とは思えない今どきの女の子だ。自分に仕える女童に五衰(ごすい)という変な名前をつける洒落っ気もある。そんな姫君だから、入内する予定だった東宮が亡くなり、次の東宮に嫁ぐまでの十年間、ただお邸でじっと待っているなんて耐えられない。「つまらない。あたしは海老腰のおばあさんになっちゃうわ」と、内心は不満がいっぱいである。「もっとひろい世の中を見てみたい、それも世の中の男たちを」とひとりジリジリしていると、姫君の前に小天狗の外道丸があらわれて、どういう気まぐれからか、その願いをかなえてくれるという。月冴姫はなぜか河童や猩々(しょうじょう)、大亀のヒー公といった物の怪と心を通わせることができるのだ。
姫の家には代々、不思議な玉の櫛が伝わっている。重たくて髪をすくには実用的ではないと思うが、その櫛は姫が見たいと思っているところや、運命的に見なければならないことを映し出す霊力がある。ときには時空を超えて、唐の都の玄宗皇帝と楊貴妃の仲睦まじい様子を見せることもある。いったい櫛はどんな形をしているのか、そこにどんなふうに映像が浮かぶのか、私はこの玉の櫛がとても気になる。
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