ある日、退屈しのぎに櫛を眺めていると、もやもやと景色が広がり、東国からはるばる都にやってきた若者の姿が浮かんできた。姫の目線はくぎ付けになる。狐の紫々(しし)が姫そっくりに化けて、その若者、晴季(はるとき)に近づいたときから、心はここにあらず、魂は全部をそっちに持っていかれてしまう。そして、恋に落ちる。たとえ本人は気づいていなくても、「この人をいじめてやりたい」「自分に振り向かせたい」と思うのはひとめぼれでしかありえない。
最終的に晴季に落ち着くまでに、ほかの男たちとの出会いもあり、それぞれちょっとずつ気持ちを通わせ合う。気が多い姫だから、そのときどきで惹かれる男性のタイプもいろいろだ。渋めのお坊様やユニークな医師(くすし)、自分の運命を嘆いているだけの貴公子もいる。この、美男だけ出てくるわけじゃない、というのがいい。とくに醜男の医師(くすし)、麻刈(あさかり)には絵心をくすぐられる。描き分けが楽しめそうだ。麻刈は愛嬌はなくても、もうすぐ仙人になるような人だから、とらえどころのない魅力を持っている。
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