まぁ、なんて楽しいお話でしょう。ヒロインははつらつとして、妖怪たちはみな可愛らしく、物語の展開はスピーディだ。まるで、小天狗の外道丸(げどうまる)に手を引かれ、姫君といっしょに平安の都の空をかけめぐってきたかのよう。読後感は爽快そのもので、当時の出版社がこの作品をなぜ漫画化しなかったのかと不思議に思ったくらいだ。今からだって遅くはない。ただし、もし漫画にするなら、古典について最低限の知識を持った作家にお願いしたい。装束にしろ、庭の花にしろ、よく知らないままテキトーに描かれると、たちまちリアリティが失われて、雰囲気がこわれてしまうから。
『王朝懶夢譚』の時代設定は作中では名は伏せられているが醍醐天皇のころ、平安中期より少し前のころだろう。東宮に夭折された醍醐帝はわずか三歳の皇子を次の東宮とした。本書はこの史実をふまえて、高貴な都の姫君と東国の若者が紆余曲折のすえに結ばれるまでの物語が描かれている。
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