いま本が売れない時代と言われているわけですが、本当は出版社が本を売っていないんじゃないかという疑問は、自分が出版社から本を出してからずっと持っていました。
『裏切りのプログラム』は松本清張賞の最終候補に残ったんですが、結局、受賞できなかった無冠の作品だったので、売れる要素が薄いと自分でも思っていました。だから、自ら手弁当で広報をやることにしました。
私は技術系のライターもやっていたので、連載していたネットの出版社さんに、「自分で記事を書きますので載せてください」と頼んで回ったり、小説をよく読んでいる人に興味を持ってもらうために、小説の推敲補助ソフトを開発して無料公開して、画面に本の宣伝を出すということをやったりしました。
ただ、こういう告知で買ってくれたのはIT系の人たちばかりだったので、ほとんどが電子書籍だったと思います。
2冊目の本が出たときはもっとひどくて、発売の1ヶ月前に担当の人が人事異動でいなくなり、次の担当が決まるまで少し時間がかかるということで、校了作業は前の担当者が兼任でやってくれたのですが、新しい担当者が決まったのは発売の2ヶ月後でした。
その新担当者の引き継ぎの時に、「発売1ヶ月の初動が悪かったので、次は状況が変わるまで紙の本は出せません」と言われて、「担当もいないのに売れるわけないよな。誰も売っていないんだし」というのが正直な感想でした(笑)。
出版社は本を作るプロではあるけれども、本を売るプロではないんだなと強く感じ、「うーん」と思っていた時に電子書籍部から声が掛かったというわけです。
私自身の中に、本を売るということに対する問題意識が高まっていたので、どうせやるなら電子書籍で書くことに意味がある本を書きたい、電子書籍で書くことがキャリアになる本を書きたいと思いました。電子書籍編集部を主人公にして、紙の本の良くない部分もきちんと書きたい。だから、紙の編集部に対する憤りがきっかけなのかと言われれば、確かにそれはゼロではないです(笑)。
せっかく電子書籍編集部から依頼してきてくれているので、取材もいろいろさせてもらいました。話を聞いてみると、紙の編集部や営業部に対する愚痴も出てきて、やはり出版社の中でも電子書籍に対する思いは一枚岩ではないことがわかりました。でも、ある程度の対立があればこそドラマも生まれてくるわけで、これは小説にできると思いました。
加藤 電子書籍への風当たりと言うと、私も経験があります。ソニーは1990年代に少しだけやっていた電子書籍の事業を、2010年にもう一度はじめました。
ちょうどその頃、キンドルが来るとか来ないとか、ガラパゴスが端末を出すとか出さないとか、そういう渦中にあって、私もいろいろ新聞の取材などを受けたのですが、なぜか電子書籍の難しいところしか記事にならない(笑)。当時の新聞記事を見ていただくとわかるのですが、隣接権がどうだとか、キンドルが来たら本屋が潰れるといったネガティブな話題ばかりで、ワクワクするような楽しい記事がひとつもない(笑)。
事業を開始する時のソニーの記者発表でも、大きな会場に何百人という記者に集まっていただいたのですが、質問のほとんどが著作権などの権利の話やお金の流れの話ばかりでした。いま振り返ると、電子書籍はすごく難しい始まり方をしてしまったなと思います。
『#電書ハック』の購入は以下の電子書籍サイトから
【honto】
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