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「上下」から「水平」に

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──会社員は消え、個人が連帯して働く時代がやってくる


ジャンル : #小説

切り離された「個人」ではない

『会社員が消える』大内伸哉 著

──お二人にとって、企業組織の形が変わること、フリー型が未来の働き方になっていくことは明らかなのですね。

青野 そうですね。そうした社会を見越して法整備などを進めていくことが重要だと思っています。

大内 必要なのは日本人の意識改革です。これまでの社会では、「勉強してこの大学へ進めば、このレベルの企業に入社できるよ」という幸せの法則があった。ところが第4次産業革命により社会の構造が大きく変わると、そのルートが無くなってしまう。
でも逆からみると自分で幸せを追求できるわけです。人生の幸福を他者が与えてくれるものだと思っている日本人は多い。そうした意識を改めて、自分の時間を取り戻す。つまり「時間主権」を回復して、自分の幸福を自分で追求する。
それは非常に難しいことですよ。でも、否が応でも第4次産業革命という大きな荒波は襲ってきます。「それに飲みこまれると食っていけなくなりますよ」という警鐘がこの本です。

青野 これまでは企業に所属していれば、企業が守ってくれた。しかし今後は個人として自立していかなければいけない。

大内 そう。それが「企業中心社会から個人中心社会へ」ということです。

青野 そこで誤解していただきたくないのが、この「個人中心社会」とは個が分断されて孤立している社会ではないということです。ゆるやかに個人同士がつながっている社会です。横のネットワークのなかで、いくつものチームに所属していると、いままでのように一社にぶら下がっているより、はるかに安定性が高い。いま、どんな大きな会社に所属していたとしても、その会社が苦境に陥れば社員も共倒れですよ。まったく安定していない。でも横でつながっていれば、ここの仕事がなくなっても、あっちの仕事があるから大丈夫。そういうイメージを抱いてくれるといいのですが。
 バンドにたとえると、いくつものバンドに同時に所属しているようなもの。いまは一つのバンドにしか所属できないけど、他のバンドに呼ばれて演奏してもいいじゃないですか。それが出来れば、ひとつのバンドが潰れても、べつのとこで食えます。

 

大内 そうですね。原子化された個人ではなくて、個人が自分で判断して集まる、グループを作る。それが一つでもいいし、二つ、三つあってもいい。どこかの組織に所属すれば安心だと思うのではなく、自分中心で組織を考える。

青野 そのニュアンスが伝わると、「悪くないね」「楽しそうだね」と思えるでしょう。

大内 いまは特定の企業にロックインされているので、自分で判断する余地がせばまっています。ただしロックインされないためには、自分に力が必要です。力がなければ、どこかに頼るしかない。そうした悪循環を、どこかで切り替えなければならない。簡単なことではないけど、そこを切り替えなければ、今後は厳しくなります。
 こうした話をすると、「それはアメリカナイズされた議論で、日本をアメリカのような社会にするのか」という反論が出ますが、日本がこれまで特殊だったわけです。将来的に社会が変わるというよりも、日本以外の国では、だいたい、既にそうなっている。日本だけ組織中心主義。日本は高度経済成長期に夢をみていたわけです。奇跡みたいな時代だった。でも奇跡はいつか終わって、現実に戻らなければいけない。昔は個人で稼げない人が雇われていた。それがいつの間にか、雇われるほうが恵まれるようになってしまった。企業の洗脳政策がうまくいったわけです。

青野 そうですよ。「サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ」(クレージーキャッツ「ドント節」詞=青島幸男/曲=萩原哲晶)ですよね。「やはり雇われるほうが楽なんだ」と。

大内 そう。そのかわり、「いつでも、どこでも、何でもやります」という従属性はあるわけです。それを我慢したら安泰だと考えるのか。これを奴隷的とみるか。

青野 それでいい、というのであれば構いませんが、「落ち着け。別の選択肢あるぞ」と。

大内 企業も徐々に社員への保障を減らしていくでしょう。採用するときは、「正社員になれば安定は保証しますよ」と言うでしょうが、十年たつと分かりませんよ。いまの企業が約束を守れるのか。ですから若者たちには「企業を信じてはいけないよ。銀行だってあぶないよ」と伝えたい。かつて銀行といえば、安全安泰の代表格でしたが、いまは銀行を志望する学生が減ってきている。若い人たちも見えてきているわけです。あるとき一気に変わっていくかもしれません。

【次ページ 副業・複業の解禁は大企業の生きのこり戦略だ】

文春新書
会社員が消える
働き方の未来図
大内伸哉

定価:968円(税込)発売日:2019年02月20日

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