「AIに奪われる」の先にあるもの
──近年、「AIに仕事を奪われる」という議論が盛んです。この『会社員が消える』も同じテーマだと受け止められそうです。
大内 たしかにAIに代替される職業や、ロボットなど「デジタルレイバー」との協業についてページ数を割いていますので、そうした内容も含まれています。ただし、最も伝えたかったのは、その先にある世界です。AIやICTに代表されるデジタル技術の発展にともない産業構造も変わっていくし、企業も変わっていく。そうなると働き方も個人中心主義に変わっていかざるをえない。「働き方も今までと同じではいけませんよ、それを早く知ってね」という本です。
──青野社長は著書『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』の最後で、「人間は、人工知能が思いつけない、新しい『やりたい』を見つけ出す必要があるのです」と書いています。これは「会社員が消える」時代の働き方の軸になるのではないでしょうか。
青野 個人中心主義の社会で重きが置かれる価値基準は、会社の利益ではなく、個人の幸福だとおもっています。仕事も楽しいことをやりなさい、自分の幸福につながることを、と。どれだけAIが将棋で強くなろうとも、将棋が好きであれば棋士になればいい。AIより人間が強かった時代より儲からないかもしれませんけど、当人にとっては幸せでしょう。
AIが発達して社会全体の生産性があがるのであれば、自分が楽しいことをしていても何の問題もない。企業中心から個人中心に変わるということは、まさに、こうした評価の軸が変わるということであり、その軸に沿って働こうということです。
自分の幸福につながるように働こうと考えるためには、自分に向き合わなければいけない。じつは非常に大変なことなのです。会社の利益を考えるのは楽ですよ。「最近のトレンドだと、この商品が売れるから作ろう」と考えれば済んでいたわけですから。でも、そうした軸では考えない社会になると思います。
大内 そうですね。働くことの意味や軸を考えざるをえないでしょう。私は『会社員が消える』の最後に、「AIやロボットがさらに進化して、労働が不要となる社会が到来する可能性が高い」と書きました。働くことで幸せを感じる人は働けばいいし、南の島でのんびり暮らして、狩猟採集社会へ回帰するような暮らし方もいいでしょう。
ただ、働いて生きていこうという人は、「ちょっと気をつけてね。これまでの働き方ではむりですよ」と伝えたい。そう思って書いた本です。
青野慶久(あおの・よしひさ)
1971年生まれ。サイボウズ株式会社代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長。松下電工(現 パナソニック)を経てサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーなどを務める。
大内伸哉(おおうち・しんや)
1963年生まれ。神戸大学大学院法学研究科教授。労働法の第一人者で、AIの活用やデジタライゼーションなどの技術革新がもたらす雇用への影響や、テレワーク、フリーランスのような新たな働き方の広がりにともなう政策課題を研究している。
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