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「上下」から「水平」に

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──会社員は消え、個人が連帯して働く時代がやってくる


ジャンル : #小説

組合はどうなる?

『会社員が消える』大内伸哉 著

青野 この本でも触れている労働組合について、お考えをうかがってもいいですか。右肩あがりの時代が終わり、かつてのような一律の定期昇給が意味をなさなくなっています。しかし、いまだに、春闘では組合が「何%のベースアップを」と主張しています。一方で働き方も多様になっている時代なのに、強制的な転勤や副業の禁止規定が残っており、組合は廃止を主張しない。いまの組合活動は、本当に働く人たちのためになっているのでしょうか。

大内 難しい問題ですね。まず明確に言えるのは労働組合の組織率が下がっていることです。2018年の推定では組織率が16~17%程度。つまり6人に1人しか加盟していません。さらに細かく見ると、雇用者数1000人以上の企業では41.5%ですが、雇用者数100人以上999人以下の企業では11.7%、99人以下では0.9%。日本の企業の圧倒的多数は中小企業なのですから、この数字をみても労働組合そのものが日本の労働者を代表していないと言えます。
 また業種でみると製造業の影響力が強い。工場労働者の処遇は共通点が多いので、統一した要求をすることは比較的、自然な話です。でも第3次産業となると話は違うし、新しいベンチャー企業となると全然、状況が違ってくる。だから労働組合、労働運動は国民の一部の声しか反映していないのです。

青野 一部の大企業の工場労働者を中心とした活動である、と。

大内 ただ、少しずつですが労働組合も変化はしてはいますけどね。統一したベースアップも要求しなくなってきましたし。
 この組合という面でも「個人中心主義」の台頭と「企業中心主義」の衰退をみることができます。ご存知のように日本の大企業では入社すると同時に組合員になる。つまり従業員イコール組合員。組合が完全に企業の一組織となっており、組合の幹部から、企業の経営陣に出世するということも起こる。

青野 ああ、分かりますね。組合の委員長を務めた後は本社へ栄転とか、よく聞く話です。

大内 組合とは本来、個々の働く人が必要だと判断して作るもので、個人中心主義であるべきなのです。それが日本では企業中心主義となっている。
ですから個人中心主義の台頭という観点からいえば、既存の労働組合は滅亡の道を歩むことになると思います。一方で、いま動きが活発になっているのは「コミュニティ・ユニオン」と呼ばれる地域ベースの労働組合です。これは業種や職種を問わず個人で加入することができます。つまり個人中心主義的な要素がある。
団体交渉のときも、企業別組合であれば経営者に配慮することもあるわけです。お互い仲間だから。でもコミュニティ・ユニオンは外部の団体ですから容赦なく本気で対決する。中小企業の経営者にとっては大変な面はありますが、組合員からすると、必要だと感じたら加入できるので助かる。

 

青野 現場の思いを伝えるために発生してきた新しい流れなのですね。

大内 ええ。「企業別組合だと自分たちの不満が吸収されない」「結局、組合も体制派だから」という意識が背景にある。先ほど申し上げたように、企業内組合は正社員だけで構成されていますから。最近はパートを加入させようという議論はありますが、基本的には正社員の組織で、あまりに巨大になったので身動きがとれない。恐竜と同じです。それは企業内組合だけではなく、大企業そのものと同じではないかと私は考えています。方向を転換して生き延びることが難しい。そこをなんとかしないと、労働組合の未来は暗いと思います。

【次ページ 「AIに奪われる」の先にあるもの】

文春新書
会社員が消える
働き方の未来図
大内伸哉

定価:968円(税込)発売日:2019年02月20日

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