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福島出身の著者が会津の名門、芦名家をデビュー作の題材に選んだ理由とは

福島出身の著者が会津の名門、芦名家をデビュー作の題材に選んだ理由とは

文:田口幹人 (書店員)

『会津執権の栄誉』(佐藤巖太郎 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

『会津執権の栄誉』(佐藤巖太郎 著)

 舞台を同じくした六篇の連作で構成されているのだが、冒頭の「湖の武将」がオール讀物に掲載されてから、ほぼ一年に一話のペースで掲載された物語に、書下ろしを一篇加え、なんと足掛け五年の月日を費やして上梓された作品なのだ。福島県出身の著者が、デビュー作の題材に戦国末期の芦名家を選んだからこそ、この年月は、本書に対する著者の誠実さを裏付けているのではと感じている。丁寧に編まれた物語は、合戦描写よりも、人間関係の細やかさやわずかな心の動きを書き込むことで、時代小説特有の品のようなものを感じさせてくれるが、けっして歴史というもののダイナミズムも損なわれていないところに、本当にデビュー作なのか? と驚かされた。

 芦名家の重臣・富田隆実、芦名家家中・桑原新次郎、金上盛備の家臣・白川芳正、歴史上名を残すことはない足軽・小源太、会津の執権の異名を持つ芦名家家臣筆頭の金上盛備、そして奥州統一を企てる伊達家当主・政宗の六人の視点で描かれている本書は、『謀反』『報復』『忠誠』『憧憬』『慢心』『代償』という六つの心の動きを中心に、「なぜ四百年近く続いた名跡の芦名家は滅びたのか」を、伊達家との最後の戦いである摺上原の戦いに収斂してゆく形で物語が進む構成で描いており、まさに匠の技といえるだろう。

文春文庫
会津執権の栄誉
佐藤巖太郎

定価:715円(税込)発売日:2019年07月10日

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