本書は、前半五つの短編とラスト一篇の二つの物語と捉えることができる。
本来であれば、芦名家の衰退の始まりは佐竹家から入り芦名家の家督を継いだ佐竹義広を主軸に描かれるべき題材なのかもしれないが、あえて芦名家家臣筆頭の金上盛備を主軸として描くことで、因果応報を説くのではなく、変化を見極められずに今までと同じ手段を選び、自ら崩壊へと進んでいった多くの戦国武将の永らえない寂しさを浮き立たせたかったのだろう。
ここにこそ、福島県出身の著者が名跡の芦名家をデビュー作の題材に選んだ最大の理由があるのではないかと僕は考えている。
さらに、作中、福島県出身の著者だからこその立ち位置で描かれている箇所がちりばめられている。
「同情心から身代わりを申し出たのだ。そんな理由で人を庇って犠牲になる人間がこの世に存在することを……」
「いかに悲しくても、だが涙が流れた経験はない。(中略)悲しみで涙は出ないが、耐えられない怒りを覚えた時、悔しさに人は泣く」
「奪われたから、奪い返す。それの何が悪い」
「幾代もの長き星霜を重ねて、家格を軸に、上下の別を厳格に区切って統べる武家の仕組み」
いずれも足軽兵・小源太の視点で描かれた「退路の果ての橋」に記された言葉だ。
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