これもまた勝手な憶測にすぎませんが、オギリマさんの「好きに理由はないはずだけど」とは理屈抜きの正論であるとともに、そのふしぎな「好き」の所以にこそ何か人の核心が潜んでいる気もしてしまいます。カープが六度目のリーグ優勝を果たした91年をきっかけに、というのならまだ勢い、便乗、と理解もしやすいですが、オギリマさんがファンになったという90年を紐解いてみれば、カープは巨人から22ゲームも離されて二位に終わった年なのです。一体、どんな事情があればその状況下で盤石の巨人からカープに気持ちが移るのか、何不自由ない出来過ぎた夫を持った妻ならではの欠落への憧憬か、冒険への渇望か、それとも、オギリマさんの中に元々存在した何かと90年のカープが、カチリと音を立てて嚙み合ったのか。それらの解析についてはいつかまた連載で期待するとして、ともかくオギリマさんのイラストとカープへの細密な分析は、「不完全なるもの」への惜しみない愛情を感じます。知的で無駄のない筆致でありながら、そこに冷徹さはなく、不器用なもの、アンバランスなもの、つまずくもの、忘れ去られてゆくものに対する、優しさと、まなざしがあると思います。やはり外野席にある身でありながら、手前勝手にカープに感情移入を繰り返している私としては、何となく自分自身も許されている気がします。
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