- 2019.09.26
- 書評
全米を揺るがした衝撃の実話‼ 9月27日映画公開
文:阿部重夫 (『FACTA』ファウンダー)
『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス 著 渡会圭子 東江一紀 訳)
ルイスは超高速取引業者をプレデター(捕食者)と呼ぶ。彼らに食われるのは、主に生命保険や投資信託などの大手機関投資家だろう。その大口注文を先回りして、気づかれないように後出しで薄く利を剥ぎとる――コストを支払わされるのは、年金を積み立てているあなた、NISA(少額投資非課税制度)口座を開いたあなたなのだ。
フロントランは株式取引に限らない。日本ではまずFX(外国為替証拠金取引)で横行した。規制緩和により銀行だけでなく中小商品取引業者にも外貨取引を開放したせいで、FX業者がサイトに載せている外貨の気配値は、実は見せ球だったケースが少なくない。何も知らないデイトレーダーがそれを信じてクリックした注文が、フロントランの餌食にされてもほとんど気づかれなかった。こっそり無痛で生皮を剥ぐのを得意とする捕食者から見れば、かつての“眠れる巨人”GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がアベノミクスで積極運用に転換、株式運用を二〇一八年末時点で国内株二三.七パーセント、外国株二四.三パーセントに膨らませた日本は付け入る隙が十分にあるおいしい市場だろう。
だが、日本のフラッシュ・ボーイズは、金融庁が二〇一八年四月から登録制としたため、見えざる実態がようやく把握の緒についたばかりだが(二〇一九年春時点で日本のダルマ・キャピタル含め登録業者は約六十社)、まだ厚いヴェールに包まれている。
そこへいくとHFT先進国の米国では、才人ルイスが、捕食者の手品を見破る「凡人」のヒーローを見つけだした。それが、本書の日系カナダ人、ブラッド・カツヤマとその仲間たちである。蛇の道はヘビ。トレーダー出身の彼らがイカサマを実証する場面は、アルキメデスならずとも「エウレカ!」(みつけた!)と叫びたくなる。
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