糸子を見た青子は急に心がほどけ、学校で良いことがあった帰り道のように、彼女に報告したくなった。今、とても大切なことが分かった気がする。ふいに叩き落とされた新しい星で、握り締めていられるものを見つけたかもしれない。
「あのね……なぎさが、そばにいるの。私を慰めてくれてる。だから私はこれから、一人でもちゃんとやっていけると思う」
もう心配しないでと伝えたかった。もしかしたら、よくそれに気がついたね、と褒められることすら、どこかで期待していたのかも知れない。しかし日溜まりをかき混ぜる娘の手に目を向けた糸子は、みるみる顔を青ざめさせた。
「一人でも、って……なに、なに極端なことを言ってるの。一人でなんてそんな……年をとってから後悔したって遅いのよ? あのね青子、辛いのは本当に分かるけど、ちゃんと現実を見なきゃ。気持ちを切り替えて、次の生活に踏み出すの。子供はいらないっていう男性だって探せばきっといるわ。一人なんてだめよ。だってなぎちゃんは、なぎちゃんは……」
もういないのよ、とうめく糸子の内部で悲しみがみるみる膨張し、意識を塗りつぶしていく景色が見えるようだった。ああお母さん、いっぱいにならないで。青子は胸が詰まった。もう糸子にメッセージは届かない。青子が見つけたどんな真実も、幼稚な妄想として拒まれる。
新しい星で、青子はやはり一人だった。墜ちた砂地で途方に暮れて、すすり泣く母親を眺めていた。
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