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占領、偽史、ユダヤ──『Orga(ni)sm』読解の糸口として【作品論】<阿部和重『Orga(ni)sm』を体験せよ>

占領、偽史、ユダヤ──『Orga(ni)sm』読解の糸口として【作品論】<阿部和重『Orga(ni)sm』を体験せよ>

文:大和田俊之

文學界10月号

出典 : #文學界

『オーガ(ニ)ズム』(阿部和重 著)

 第二次世界大戦の敗戦後、サンフランシスコ講和条約を締結するまで連合国軍の占領下に置かれ、現在も独立国家でありながら属国のような関係を維持する共同体において、「歴史」は必然的に偽史と陰謀論にまみれた言説となる。この政策はどこまで私たち自身が決定し、どこまでアメリカ合衆国の意向が反映されたものなのか、日本の政治家がどこまで主体的に決断し、どこまでアメリカに操られているのか、私たちは原理的に判断することができない。そこでは不可避的に陰謀論が飛び交い、真実と憶測の区別がつかない言葉がただ肥大化し、流通せざるを得ないだろう。『Orga(ni)sm』の登場人物の認識が歪み、幻覚と現実の描写がシームレスに続くのも当然の帰結だといえる。

 実在の新聞記事を数多く引用し、それを目眩がするほど広大な時空間に偽りの(pseudo)物語で結びつける著者の構想力と想像力には舌を巻くほかない。かくして『Orga(ni)sm』において戦国時代に日本に流れついた実在の黒人、弥助と第44代アメリカ合衆国大統領バラク・オバマが結びつき、13世紀に建立された鎌倉の大仏と山形県東根市の若木山の繋がりが一子相伝の超能力を操る菖蒲家の歴史とともに綴られる。

 作品を通じて現れるおびただしい数の映画へのレファレンスも著者の読者にとっては馴染み深い手法だといえるだろう。『ランボー』、『追いつめられて』、『ヤギと男と男と壁と』、『地獄の黙示録』など有名無名の映画への直接的な言及はいうまでもなく、たとえば小説内で登場人物の「阿部和重」とその子供に準(なぞら)えられる『汚名』のケイリー・グラントとイングリッド・バーグマンの関係は、ラリー・タイテルバウムと内通者オブシディアンの因縁をも想起させる。『Orga(ni)sm』で描かれるスーツケース型核爆弾と『汚名』におけるワインボトルに仕込まれたウラニウムがそれぞれ作品内のマクガフィンとして機能している点も共通するだろう。

 だが、これまでの著作に頻出する小説と映像の参照関係とは別に、やはり本作品において「映画」は特別な機能を果たしているといえる。なぜなら、それは20世紀初頭のアメリカ南部に台頭した「南部ゴシック」とほぼ同時代にアメリカ西海岸に発展した新しいメディアであり、「映画=フィルム=薄膜」こそが、不気味なまでに薄っぺらな奥深さという陰謀論特有の矛盾を装備した媒体であるからだ。

文學界 10月号

2019年10月号 / 9月6日発売
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単行本
オーガ(ニ)ズム
阿部和重

定価:2,640円(税込)発売日:2019年09月26日

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