地球規模の話になる。前年、すなわち大正七年(一九一八)より、北半球は猛烈な速度で汚染されはじめていた。
汚染者の名を、
――インフルエンザ。
という。
原発地はアメリカだったらしい。早春の或る日、とつぜん兵営で患者がふえた。症状はいわゆる風邪に似ていた。発熱、頭痛、ふしぶしの痛み。
みょうに全身がだるい感じ。ただし風邪とちがうのは、死亡率の異様な高さだった。青年だろうが壮年だろうが関係なしに彼らは激しい咳をつづけ、ほどなく青い目の瞳孔をひらいた。肺炎を併発したのである。
もっとも、これだけならば、俗に、
――十年に一度。
といわれる大流行がまた来ただけだといえるだろうし、その範囲も、アメリカ一国を出ることがなかったろう。ところがこの時期は、たまたまとしか言いようがないが、第一次世界大戦の終盤にあたる。
兵士は兵営を出なければならない。彼らはウィルスを保持したまま船に乗り、せまい船室にひしめきつつ、大西洋を横断した。
ヨーロッパに上陸した。
他国の兵と合流し、作戦をともにし、泥濘のなかで戦闘した。
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