もっとも、翌年になり、応募図案が寄せられると、金吾はひとつひとつ熱心に見た。賢吉たちを、
「応募者の名前にまどわされるな。有名だろうが無名だろうが関係ない。友達だろうが恩人だろうが忘れるべし。純粋に作品のよしあしで一等をきめるんだ」
といましめた上、金吾自身そのように選考した。一見、政治的配慮とは無縁の清廉な態度のようだけれども、実際には、これもまた金吾流の、
(名誉欲)
賢吉は、そのように受けとめた。日本初の海外留学生、日本初の大学教授、日本初の民間事務所開設者……あたかも子供が石をあつめるようにして建築界における初物の称号を収集してきた金吾にとっては、今回の件も、おそらくは、その石の新しいひとつであるのにちがいなかった。
きらきら光る、とびきりの碧玉。国家級の建物を設計競技でやるという日本初のこころみの、発案者にして絶対的支配者。どれを一等にえらぼうと結局は金吾がみずから斧鉞を加えるのだから、応募者の名前うんぬんは、なるほど大した問題ではないどころか、むしろ無名であるほうが“あとくされ”がないわけだ。賢吉は、すすんで金吾の言うとおりにした。
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