別冊文藝春秋

『空を拓く』門井慶喜――立ち読み

文: 門井 慶喜

電子版28号

「別冊文藝春秋 電子版28号」(文藝春秋 編)

 西洋留学で近代都市とはいかなるものかを学び帰国した辰野金吾は、江戸の面影を残す首都・東京をいかに近代化するか知恵を巡らせていた。さっそく工部省の役人兼工部大学校の教授という立場を得て改革に乗り出すも、一年で工部省が廃省。しかし金吾は悲嘆に暮れる事なく「辰野建築事務所」を開設し、日本初の中央銀行、「日本銀行」の建設を受注。明治二十九年、完成させる。

 続いて「辰野葛西建築事務所」を立ち上げた金吾は、東京駅の建設へと挑む。コンクリート造を推す若手との対立など困難を乗り越え、ついに完成。あと一つ、是が非でもやるべき仕事は……。


7 空を拓く(承前)

 矢橋賢吉、四十九歳。

 年長者に従順で、したがって指導教授たる金吾に対しても卒業このかた反抗のけしきすら見せたことがなかったけれども、こと議事堂に関しては、完全に、

(たがが、外れた)

 そう思わざるを得なかった。

 金吾の言動がである。このごろはもう、

(我意の、ばけもの)

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版28号文藝春秋・編

発売日:2019年10月18日


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