別冊文藝春秋

『空を拓く』門井慶喜――立ち読み

文: 門井 慶喜

電子版28号

「別冊文藝春秋 電子版28号」(文藝春秋 編)

 ほかの委員もまたそうだった。多数の作品をよりぬいた上、第一次審査が終了したのは、調査会の結成から約二年を経た、大正八年(一九一九)二月二十四日だった。

 数日後。

 賢吉は、一通の手紙を金吾へ出した。

 内容はただの事務連絡である。

 ――次回の審査会は、三月十九日にひらくこととなりました。

 問題はその手紙の送り先だった。金吾から、人を介して、

 ――しばらく館山ですごすことにする。そのつもりでいるように。

 との指示があったからである。

 滞在先の旅館の名前と住所も聞いたけれども、館山というのは千葉県南部、館山湾をのぞむ温暖な地で、あまり交通の便がよくない。

 東京の人はふつう、物見遊山のためには行かない。療養のために行く。

「先生、何のご病気なのだろう」

 そんなことを、ほかの委員と話したりした。転地が必要なほどのそれとなれば、結核か、あるいは胃潰瘍か。もしも病状が重篤だったりしたら、長い目で見れば、それこそ議事堂建設の進捗にかかわるのである。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版28号(2019年11月号)文藝春秋・編

発売日:2019年10月18日


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