『潮待ちの宿』(伊東 潤 著)

――長編で書こうとは思わなかったのですか。

伊東 世話物には短編というフレームワークがマッチします。本作でも一話完結にしたからこそ、切れのいい物語を並べられたと思っています。クロニクル的な長編というフレームワークで書いたとしたら、全く違う物語になったと思います。

――これからも世話物を書く予定はありますか。

伊東 いまのところ、ないですね。この作品は特別なものなので、これ一作にしておきたいと思っています。ただ、江戸を舞台にした、もう少しミステリーテイストを強めたものは書いていきたいですね。松本清張さんの『無宿人別帳』みたいな作品かな。

――最後に、読者に一言。

伊東 読み終わった時、読者のみなさんがこの港町に行き、この宿に泊まり、志鶴ちゃんとおかみさんに会ってみたくなる――そんな仮想的ノスタルジーを抱けるような小説になったと思います。

北木島の石切り場でポーズをとる筆者