――伊東さんといえば重厚な歴史小説が主戦場でしたが、ここ数年、様々なジャンルへ挑戦なさっていますね。
伊東 デビュー以来、歴史小説を書き続けてきたので、私には歴史小説家というイメージが強いと思います。しかし私は、子供の頃から様々なジャンルの小説に親しんできたので、歴史小説という枠に収まりたくないと思ってきました。それで、近現代ミステリー(『横浜1963』『ライト マイ ファイア』)や法廷劇(『真実の航跡』)を書き、今回は世話物に挑戦したわけです。連載中の作品にはホラーテイストのものもありますし、いつかは近未来SFにも挑戦したいですね。
――伊東さんのトータルなキャリアの中で、この作品はどのように位置づけられていますか。
伊東 私の作家としてのビジョンの範疇には入れにくいものですが、質実剛健な作品群の中に可憐な一輪の花があることで、キャリア全体が随分と違った色合いに見えてくると思います。誰にも心の中に小さな宝石箱があります。それを本作で垣間見せたというところでしょうか。
――作品では、口減らしのために宿に預けられた志鶴の半生を通して、時代や地域の変化を描いていきます。
伊東 懸命に生きる一人の女性を通して、幕末から明治にかけての激動の時代を描きつつ、変わらぬものと変わりゆくものを描く。また親子兄弟の絆、友への信頼、男女の愛、町衆の連帯感など、人間として大切な部分も意識しました。基調低音として、様々な形で「待つ」ことの大切さという、トータルなテーマに貫かれた作品になったと思います。
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