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始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!? 驚きの政治体制とは

始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!? 驚きの政治体制とは

文:冨谷 至 (京都大学名誉教授)

『始皇帝 中華帝国の開祖』(安能 務 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『始皇帝 中華帝国の開祖』(安能 務 著)

 胡亥という男は、実に暗愚な人物であり、老獪な趙高にとっては、赤子の手を捻るようなもの、わけなく甘言に乗ってしまう。しかしいまひとり遺言書の内容を知っていた李斯は、ひと筋縄ではいかない。なんといっても国家を代表する重臣であり、秦の法治主義の政策は全て彼によって推進されたのだった。

「お上は崩御されました。ご長男に手紙を送られ、咸陽で棺を迎えて跡継ぎになれとのことです。ただ遺書はまだ発送せず、印とともに胡亥様の下にございます。如何致したものでしょうか」

 聡明な李斯にして、趙高のこの言葉が何を意味するのか、瞬時に理解できた。

「そなた、亡国の言を吐くか! 臣下たる者のとやかく言う筋合いではない」

「殿、お考えいただきたい。ご自分と蒙恬、才はどちらが勝っておられるとお思いか?功績はどちらが勝っておられるか? 遠謀熟慮はどちらが勝っておられるのか? 人気はどちらが勝っておられるのか? 扶蘇様のお覚えはどちらが勝っておられるのか?」

「確かに、蒙恬にはおよばぬ。しかし、そなた何故にかくも儂に畳みかける?」

「扶蘇様は、剛毅で武勇が優れて、人望を得ておられます。位につかれれば、蒙恬を丞相にされること間違いなく、貴方様は今の立場に留まることはできますまい。私め、教育係として胡亥様にお仕え致して参りましたが、胡亥様は過失なく、仁愛に富み、聡明で軽薄なことは口にされません。御公子のなかでも希有な人材かと。お世継ぎとして、どうかご賢察を」

「もうよい、さがれ! 某、なき主君の遺詔を奉じ、天の命に従うのみ。他に考えることなどない!」

文春文庫
始皇帝
中華帝国の開祖
安能務

定価:902円(税込)発売日:2019年11月07日

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