書評

始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!? 驚きの政治体制とは

文: 冨谷 至 (京都大学名誉教授)

『始皇帝 中華帝国の開祖』(安能 務 著)

『始皇帝 中華帝国の開祖』(安能 務 著)

 紀元前二二一年、現在の陝西省の西方地域を本拠地として覇権を争ってきた秦は、東方の諸侯国を平定して全国統一を果たした。

 秦が統一する以前の中国は、殷周時代、春秋戦国時代という時代名称で区分されている。その時代は、各地に周王から領地を与えられ周王朝の藩屏の役割を担った独立した国(これを諸侯国という)が存在した。

 それは、ちょうど我が日本の室町時代から戦国時代への流れと似ている。つまり京都に足利将軍がいて、そのもとに領土の所有を安堵され自国の兵と法をもつ戦国大名が各地方に存在した。大名の力は次第に強くなり互いに覇権を争い、足利将軍は名目上の存在となってしまい、親族もしくは家来にその地位を奪われる大名も存在した。下克上が出来した時代である。

 将軍を周王、戦国大名を斉、晋、楚などの封建諸侯国に置き換えた構図、それが中原に鹿を逐った統一前の情勢にほかならない。

 ただし、同じ戦国時代という名称をもつ日本と中国、その後の両国の歴史には大きな違いがある。

 日本の戦国時代は、織豊政権へとすすんでいくが、そこでも封建制は継承され地方分権のもと大名は無くならない。しかし、紀元前二二一年統一を完成した秦は、独立した諸侯国を認めず、全国に郡、その下に県をおき、長官は中央から派遣した。換言すれば、郡県制を基盤とする中央集権国家を誕生させたのである。

始皇帝安能 務

定価:本体820円+税発売日:2019年11月07日


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