六年間で身に付けた行動規範
男子御三家卒業生たちの母校愛の強さは、裏返せば中高六年間で身にまとった各校独自の「色」が大人になったいまでも自身の行動規範に多大な影響を及ぼしているということだ。では、それぞれどんなカラーなのだろう。
次のような証言が各校の卒業生から得られた。
麻布出身の卒業生は、麻布生に一脈通じた気質をこう言い表した。
「麻布生は心の広い人が多いと思います。他人の趣味とか活動に介入して乱さないばかりか、『お前すげえな』って互いの秀でているところを認め合うところがありました」
他者を受け容れるには自身の立ち位置が分かっていなければならない、と別の麻布卒業生は言う。
「ぼくが麻布で得たのは、自己を見つめ、自身をしっかりと表現する力です。自分がどういう人間かを考えさせられる機会が麻布では多かったからでしょう。たとえば、誰かと知り合うときに、いろいろな過程を経てその人と距離が近くなっていくわけですけれど、麻布でそういう過程をある意味早送りするような力を得たような気がしています」
麻布出身の大学四年生は、「麻布では個を出さなければやっていけない」と語る。
「麻布での生活は、どれだけ自分の個性を出せるかにかかっている。個性的であらねばならないっていう雰囲気が学内に満ちていました。その場を面白く盛り上げることに懸命になっているヤツが多いし、とにかく目立ちたくて仕方のない人種ばかり」
それでは、開成生のカラーはどういうものだろう。
開成卒業生の一人は、同級生たちに共通する性質が確かに存在していたと振り返る。
「在学中に感じていたのは、開成の人たちはみんなそれぞれ何か秀でている、突出しているところがあるという点です。勉強ができるのは立派なことだ、スポーツができるのも立派なことだ、自分の趣味をとことん突き詰めることも立派なことだ。こういうように多面的な尺度でものをみて、それぞれが持っている強みを素直に受け入れていく。多様性に開かれている懐を持っている人が多かったし、わたしは居心地がよかったですね。卒業してからも開成出身者たちからその性質は変わらず感じられます」
続いて武蔵生はどうなのだろうか。
教育業界に勤める武蔵の卒業生は、中高時代に受けた教育がいまでも自身の中に息づいているという。
「ぼくは人から『それってこういうものだろ』って言われたとしても、すぐに受け入れるようなことはしません。それを自分で徹底的に調べないと納得はできないんです。自ら書籍を読んだり、必要ならば足を運んだり、探究的な姿勢は武蔵で培われたと確信しています。そういえば、武蔵時代の同級生は学者や医者がとても多い。どちらも探究心が大切な職業ですよね」
そうなのである。わたしは今回本書を著すにあたって、男子御三家各校の卒業生たちに直接取材をおこなったが、それぞれに「麻布的な何か」「開成的な何か」「武蔵的な何か」を確かに感じ取ることができたのだ。
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