「鬼才」の麻布、「秀才」の開成、「変人」の武蔵
前著『女子御三家』の取材をおこなった際に、わたしはそれぞれの学校出身者に一脈通じる性質に言及した。桜蔭は「勉強のみならず、さまざまな分野において吸収力に傑出した女性」、女子学院は「自己責任感の強い成熟した女性」、雙葉は「ときに『したたか』に感じられるほど処世術に長けている女性」である。
その学校別の典型的なキャラクターをわたしは「空き缶」のたとえ話に落とし込んだ。
もし道端に空き缶が落ちていたら?
桜蔭生……すぐさま拾い、ゴミ箱へ捨てにいく。(理系・医系の生徒は、捨てにいく途中で缶に記された原材料や成分をチェックする)
女子学院生……考え事にふけっていたため、缶が落ちていることにそもそも気づかない。
雙葉生……誰が捨てにいくのかを決めるジャンケン大会が始まる。(ただし、他人が通りかかったら、その人に見せつけるようにそそくさと捨てにいく)
同じように、男子御三家各校に共通する性質についてのたとえ話を作ってみようと考えた。
わたしの経営する中学受験専門塾スタジオキャンパスのスタッフたちと男子御三家各校のたとえ話を考えてみたら、夜遅くまで盛り上がってしまった(スタッフには開成出身者が二名、武蔵出身者が一名いる)。
その結果、「プラモデル」を用いたたとえ話がぴったりだね、という結論に達した。
もし複雑なプラモデルを組み立てるのであれば?
麻布生……組立説明書は無視、感覚だけで独創的かつ味のある逸品を製作する。
開成生……組立説明書を一言一句しっかり読み込み、精巧で完璧な作品を製作する。
武蔵生……組立の途中で各パーツにのめりこんでしまい、なかなか作品が完成しない。
いかがだろうか。各校のキャラクターがなんとなく見えてきたのではないか。
さらに、男子御三家各校の在校生・卒業生たちの個性は、二字熟語でシンプルにまとめることができる。
麻布は「鬼才」。
開成は「秀才」。
武蔵は「変人」。
もちろん、どれも「褒めことば」である。男子御三家各校の卒業生たちに取材を重ねていくと、それぞれに共通する「才知」がひしひしと感じられたのだ。
なぜ、このようなキャラクターを各校が培っていくのか。
本書では、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)の著書がある中学受験専門塾代表の矢野耕平氏が、教え子をはじめ数十人の男子御三家卒業生への取材を元に、各校が求める生徒像や6年間の学園生活を詳述している。
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